この記事は、油彩絵具に用いられる乾性油及び揮発性油の特性を箇条書きにしたものである。多少わかりやすくするつもりだが、得た知識の発散と言う傾向が強いので、乱文はご容赦願いたい。
乾性油
油彩絵具に用いられる乾性油とは脂肪酸とグリセリンの化合物(以下油脂)であり、動物性と植物性の二種類がある。
油彩絵具に使用されるものは植物性である。
脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸が含まれており、ある油脂が不飽和脂肪酸を多く含んでいる場合、空気中の酸素を取り込んで、酸化、重合の化学反応を起こす。
不飽和脂肪酸が多ければ多いほどその油脂は流動性が高く、また乾燥能力も高い。
この乾燥性が高いものが乾性油と呼ばれ、油彩絵具に用いられる。
つまり不飽和脂肪酸が多い植物性の油脂が乾性油と言うわけだ。
乾性油には、亜麻仁油(あまにゆ)、煮亜麻仁油(ボイルド・リンシードオイル)、スタンド亜麻仁油(スタンド・リンシードオイル)、太陽で濃縮した亜麻仁油(サンシックド・リンシードオイル)の亜麻仁油及び加工亜麻仁油系がある。
他にも、罌粟油(けしゆ・ポピーオイル)、紅花油(ばにばなゆ・サフラワーオイル)、胡桃油(くるみゆ・ナッツオイル)、向日葵油(ひまわりゆ・サンフラワーオイル)、大豆油(だいずゆ)がある。
亜麻仁油
最も油彩絵具に用いられる乾性油。亜麻の種から得られる。過去には低温で押しつぶしたものが、色調も淡く、体質性にも優れ、使用されてきた。
現在では精製され、不純物を取り除いたものが使用されている。
亜麻仁油単体では粘度が高いため、ほとんどの場合揮発性油と混合して使用する。以下の加工系亜麻仁油及び乾性油も同様である。
煮亜麻仁油(ボイルド・リンシードオイル)
乾燥剤を加え、部分的に酸化重合し乾燥性を高めたもの。過去には酸化鉛を加えて約280℃で加熱して製造されていた。
現在では溶解性金属塩を乾燥剤として、約150℃で加熱し製造されたものが使用されている。絵画用にはテンペラ、乳濁液などに使用されている。
スタンド亜麻仁油(スタンド・リンシードオイル)
空気を遮断して280~300℃で加熱し、製造される。粘度が高く、黄色みが少ない。通常の亜麻仁油よりも乾燥が遅いが、滑らかで陶器のような画面になる。黄変も少なく、耐久性に優れている。
太陽で濃縮した亜麻仁油(サンシックド・リンシードオイル)
ルネッサンス以降の伝統的な亜麻仁油の加工方法。
水と亜麻仁油を同僚に混ぜたのち太陽光に数週間さらす。その後、水を除去し、油をろ過させて瓶に密閉する。
特徴として粘度が高まり、色も淡くなる、さらに乾燥も通常の亜麻仁油と比べると早くなる。
罌粟油(けしゆ・ポピーオイル)
罌粟の種から得る。黄色みが低く、明色や白色の顔料に用いられることが多い。
乾燥速度が遅く、亀裂が入りやすい。
地塗り、下層には使用せず、仕上げのみに使用する。
紅花油(ばにばなゆ・サフラワーオイル)
染料の原料でもある紅花の種からえられる。不飽和脂肪酸が他と比べると少ないため、半乾性油だが、少量の乾燥剤を加えて使用する。
黄変が少ないため、明色や白色の練り合わせに使用する。
胡桃油(くるみゆ・ナッツオイル)
胡桃の種から得る。自家製絵具で使用する画家もいる。冷凍保存をしないと油彩絵具が腐敗を起こす。
向日葵油(ひまわりゆ・サンフラワーオイル)
向日葵の種から得られる。ロシアの聖像画(イコン)に昔から使用されていた。
ポピーオイルと性質は似ている。
大豆油
大豆から得られる。サフラワーオイルと同様に半乾性油だが、アルキド樹脂の中に用いられる。
ニュートン社のアルキド樹脂絵具に用いられている。
ブラックオイル
後述にはなるがブラックオイルと言われるものがある。これはボイルドリンシードオイルで紹介した酸化鉛を利用した古典的な加工乾性油である。
茶褐色の乾性油となり、練りあわされた顔料も暗色となる。亜麻仁油の他、様々な乾性油をブラックオイルとすることができる。
酸化鉛はリサージ・日本では鉛丹(えんたん)や密陀僧(みつだそう)とも呼ばれ、ネットでは一部取り扱い(モノタロウ・酸化鉛)があるが、毒性が強く劇物扱いのため一般の方は購入できない。
粉末状の鉛白を熱することで酸化鉛を得ることはできるが推奨はしない。
粉末状の場合吸い込む危険性が高く、身体に著しい中毒症状や慢性の諸症状が出るため自家精製をする場合は、練り合わせたチューブ絵具のシルバーホワイト(鉛白)を使用したほうが良い。
私も一度ブラックオイルを製作したことがあるが、ケミカルな臭いが凄まじく、気分が悪くなるので、製作はお勧めしない。
揮発性油
揮発性油は一時的に顔料及び乾性油を溶解させ、油彩絵具の粘度・筆さばきの調整を行うために用いる。
時間の経過とともにそれらは蒸発してしまうのも揮発性油の特徴でもある。
多量の使用は油彩絵具の固着成分である乾性油の性能を損なうため、多く使用しないのが鉄則である。
※多く使用しないとは、ほとんど100%のことを意味する。
実際日本に油彩絵具が入った当初、後述するテレビン油(テレピン)などの揮発性油のみを使用した日本画家たちの作品はすべからく剥離が著しい。
テレビン油(テレピン・ターペンテイン)
針葉樹樹脂を用いた揮発性成分のこと。各ヨーロッパの松属針葉樹を傷つけ、そこから染み出すバルサム(松脂)を、水蒸気蒸留すると、テレビン油(テレピン)が得られる。
それをさらに石灰水で脱酸し、155~162℃で再び蒸留したものが良質なテレビン油(テレピン)となる。
テレビンには刺激性があり、頭痛やめまい、耳鳴りなどの症状が出る。過去に多量に使用した画家や修復家が湿疹などの症状も見られた。現在、その原因物質であるカレンを含んだテレビン油(テレピン)は市場から少なくなっている。
またテレビン油(テレピン)は日光・酸素・高温によって酸化するため、保存の際は冷暗所に保存すると良い。
殺菌作用もあるため、バクテリアや黴(カビ)の増殖を防ぐ役割がある。そのためチューブ絵具の中に含まれている。
テレビン油(テレピン)は樹脂を溶解する性質もあるため、ダマール(ダンマル)樹脂を溶解した樹脂溶液を製造する際にも用いられる。
ペトロール油
石油を蒸発して作られる。その性質はテレビン油(テレピン)によく似ているが異なる点もある。
蒸発しても全く残留がない。年月を経ても品質が低下しない。湿疹作用がほとんどない。筆やパレット、衣服についた油彩絵具のふき取り、油彩絵具の希釈剤として使用する。
テレビン油(テレピン)よりも溶解性が少ないため、ダマール(ダンマル)樹脂を溶解することが難しい。
揮発性油に関しては、私自身テレピンを愛用していたが、頭痛や吐き気、痒みがでたため、今後揮発性油を買う場合は、できるだけペトロールを使用したほうが良いと考える。
テレビン油(テレピン)を使用する場合、パレットに膠着してしまった油彩画を落とすときや、上記のように樹脂溶液を自家精製するときのみに使用するほうが無難である。
よく油彩絵具でかぶれたり、気持ちが悪くなりだめになる方々がいるが、そのほとんどはテレビン油(テレピン)による諸症状ではないかと推察できる。
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