油絵で使う“白”の選び方・画家が教える秘密のレシピ

はじめに

みなさん、こんにちは。画家の僕、岩下幸円です。
油絵を始めると「白が多すぎて何を選べばいいのか、もう分からない…」

という声をしばしば耳にします。

僕自身も、画材店で“白だけ”の棚の前に佇んだとき、

チューブの名前(パーマネントホワイト、チタニウムホワイト、セラミックホワイトなど…)に圧倒された経験があります。

この記事では、僕が実際に制作現場で使ってきた視点から、

「白の種類ごとの性質」「使いどころ」「混色のコツ」「乾燥・保存の注意」まで、

実践的にまとめました。

最後には僕の“秘密のホワイトレシピ”もこっそり紹介します。

※安全注意も必ずお読みください。

目次

  1. 白の基本(なぜ白は種類が多いのか)
  2. 主要な白の種類と特徴(鉛白・チタニウム・ジンク・セラミック)
  3. 白ごとの混色での違い(色がくすむ/白が支配するなど)
  4. 乾燥性とメディウムの選び方(乾燥遅延・速乾化の実践)
  5. 安全・保存・劣化のリスク
  6. 僕の秘密のホワイトレシピ(比率・使い方・応用)
  7. よくある Q&A(初心者がつまずく点)
  8. まとめとおすすめセット(初心者/中級者向け)
  9. 参考文献

1|白の基本 — なぜ「白」がこんなに種類あるのか

白は、絵画においてもっとも使用頻度が高い絵具のひとつです。

なぜなら、光を表現する、ハイライトを作る、混色で明度をコントロールするなど、

作品の「見え方」そのものに直結するからです。

僕も、自作の作品で白を何本も使い分けてきました。

「白いチューブがやたら大きい」理由もここにあります。

とはいえ「白=白」で済むかというと、実は全く違います。

化学的な性質・不透明度・乾燥性・混色の結果が大きく異なるため、

用途に応じて複数を使い分けるのがプロの技です。

選ぶときに見てほしいポイントは下記の3つ:

  • 不透明度(被覆力)=下の色をどれだけ隠すか
  • 色味(暖かい/青み)=混色結果に影響大
  • 乾燥挙動=“油分の量”“層構造”と絡む

これらを理解すると、「どれを選ぶか迷う」時間が格段に減ります。

2|主要な白の種類と特徴(実践解説)

ここでは、制作で頻出する白を、僕の経験も交えて整理します。

A. 鉛白(Lead White/Flake White/Cremnitz White)

呼び名:鉛白(Lead White/Flake White)
特徴(制作上)

  • 暖かみがややあり(黄味寄り) → 肌色・陰影作りに向く
  • 混色で色がまとまりやすい(被覆力は中)
  • 乾燥を促進する性質があり、下地や厚塗りで有利です。 (Nature)
    長所:絵肌が豊かに出る、厚塗りで透明感が生まれる
    短所/注意:鉛含有のため毒性あり。子どもやペットのいる環境では保管に注意。現在では鉛不使用代替品が多く流通しています。利用には安全対策が必要です。 (ウィキペディア)
    使いどころ:人物の肌、柔らかなハイライト、下地のトーン調整
    実践メモ:鉛白は「少し黄味を残した柔らかな白」を作れます。厚塗り+グレーズとも相性良好。

レンブラントの立体感のある白はこのシルバーホワイトの油絵具が使用されています。

B. チタニウムホワイト(Titanium White)

呼び名:チタニウムホワイト(Titanium White/PW6)
特徴

  • 市販白のなかで最も明度(白さ)が高い。 (PIGMENT TOKYO)
  • 被覆力が強く、少量で色を「覆う」力がある → ハイライトや塗りつぶし向き
  • 乾燥は比較的遅め(厚塗りの場合、乾燥に日数がかかることも)
    長所:現代油彩で主役級の白。非常に白く、目立つハイライトが作れる。
    短所:混色では他色を「食べて」しまう傾向あり。微妙なトーン調整には慎重さが必要。
    使いどころ:瞳のハイライト、雪・強烈な光の表現、クリーンな白を欲する箇所
    実践メモ:チタンは「白く隠す用途」に最適。ただし混色時は少しずつ入れることを推奨します。

パーマネントホワイトというものが販売されてますが、

ほとんどの場合、このチタニウムホワイト(C.I.Name:PW6)と同じ顔料が使用されています。

C. ジンクホワイト(Zinc White)

呼び名:ジンクホワイト(Zinc White/PW4)
特徴

  • 青みがあり、透明性が高めの白。 (PIGMENT TOKYO)
  • 混色で微妙な質感・透明感を作るのに向く
  • ただし、長期的に「脆く」なる問題が指摘されており、亀裂が出ることもあります。 (Jackson’s Art Supplies)
    長所:透明白・混色用として秀逸
    短所:下地に使うと上塗りが剥がれやすいことあり。構造設計が必要。
    使いどころ:最終仕上げの薄いハイライト、色を抑えながら明度を上げる時
    実践メモ:ジンクは「薄膜での透明な白」を作れるが、厚塗りでは亀裂のリスクあり。

D. セラミックホワイト

呼び名:セラミックホワイト
特徴:半透明で耐久性が高い

  • 黄変しにくく、
    長所:黄変がしにくいとされています。
    注意点:カラーインデックスネーム(C.I.Name)がPW37であることを確認
    実践メモ:混色からハイライトまで幅広く使えます。

価格が他のWhiteに比べて若干高いことがネックですが、非常に使いやすいです。

予算に余裕がある人は購入を検討してみましょう。

3|白ごとの「混色」の違い(実例と対策)

白を使う上で、最も戸惑いやすいのが「混色したら思った色にならない」「白を入れたら色味が変わり過ぎた」という体験です。僕もまさにこの過程を10年かけて学びました。安心してください、僕も最初は手が震えました。

混色でよくある失敗パターン

  • 白を大量に入れたら、くすんだグレーになった。
  • チタン白を混ぜたら、色が「真っ白寄り」になってしまい、自分のイメージとズレた。
  • ジンク白を使ったら、後から亀裂が出てしまった。

具体的な挙動と対策

  • 被覆力が強い白(チタン)を使うと、色味が隠れてしまいがち。→「まずは白少なめで混ぜ、明度だけ少し上げる」ことを推奨。
  • **透明寄りの白(ジンク)**は、混色量が少ないほど「色を明るくしつつ質感を残す」ことができる。→「薄く10〜20%」から味見が安心です。
  • 暖か味のある白(鉛白)は肌色などに向くが、黄味が残るため、色味を冷たくしたい時には混色時にほんの少し青寄りの絵の具を入れるとバランスが取れます。
  • 混色後に「なんだか鈍くなった」「マット過ぎる」と感じたら、白を足すのではなく、白+透明メディウムを足すことで“光を通す白”に仕立てられます。

4|乾燥性とメディウムの選び方(現場的アドバイス)

白の油絵具は、使われる顔料ごとに異なります。これは、制作日数/保存性/仕上がりの質感に直結します。

乾燥性の傾向

  • 鉛白:乾燥を促進する性質があり、厚塗りでも比較的乾燥して安全です。
  • チタン白:乾燥は若干遅め。特に厚塗りの場合は数日〜数週間かかることがあります。
  • ジンク白:乾燥が遅く、また固くなりやすく、亀裂が出るリスクあり。

メディウムの選び方

  • 速乾メディウム(乾燥促進剤):乾燥遅めの白と使うと制作効率が上がります。
  • 透明メディウム:混色後の白を“透過的に見せたい”時に有効です。
  • 微量の白配合メディウム:例えば“ホワイト入りグレーズ”を作りたい時の強い味方です。

僕の場合、ホルベインのストロングメディウムを使っています。

乾燥速度がちょうどいい(2日くらいで乾燥する)ので、オススメです。

制作時チェックリスト

  • キャンバス厚塗り時は、乾燥を待つ時間を設けること(24時間以上)
  • 上層にチタン白を使う時は、下層を鉛白+透明メディウムで整えておくとひび割れ防止になります。
  • 展示用・販売用作品の場合、使用顔料とメディウム記録を作品裏面に書いておくと将来の保存・評価に安心です。

5|安全・保存・劣化のリスク(必読)

「白だから安心」と思ってしまうと、将来の“亀裂”“黄変”“剥離”などに悩むことになります。

ここでは見えないリスクを整理します。

主なリスク

  • 鉛白:鉛含有により毒性があります。作業後の手洗いや、換気を徹底してください。 (ウィキペディア)
  • ジンクホワイト:油絵で使用した際、亀裂・剥離が生じる可能性が指摘されています。
  • 可燃性布/油まみれの布:油絵に使った布や紙は自己発火するケースがあります(例えばオイル染み布)。くれぐれも可燃物処理を。
  • 黄変・変色:展示環境(紫外線・高湿度・換気不足)が白の黄変を引き起こすことがあります。

保存のポイント

  • 適切な**湿度(45〜55%)・温度(18〜22℃)**で保存するのが理想です。
  • 直射日光・反射光を避け、UVカットガラス+無酸素フレームの額装が望ましいです。
  • 定期的な**作品チェック(表面剥がれ・ひび割れ・変色)**をおすすめします。
  • 使用顔料・メディウム・日付を作品裏に記録することで、将来の鑑賞・修復・販売に価値が出ます。

6|僕の「秘密のホワイトレシピ」+応用テクニック

ここからは、僕の個人的な制作レシピを共有します。

もちろん「これは僕の感覚」ですので、まずは少量で試してみてください。

レシピA(汎用的なオススメレシピ)

  • チタニウムホワイト:70%
  • :透明なメディウム(ストロングメディウム)30%
    → 結果:チタニウムホワイトの白さをおさえながら乾燥速度を早めたレシピになります。一週間ほど乾燥に必要なチタニウムホワイトが(季節によってですが)2日あれば乾燥します。肌色や花びらのハイライトに最適。混色にも使いやすいのでオススメです。

レシピB(中級者向け・混色用)

  • シルバーホワイト:40%
  • チタニウムホワイト:50%
  • 透明メディウム:10%
    → 結果:混色で淡い光感を出しつつ、レイヤー構造の厚みを作れます。

シルバーホワイトとチタニウムホワイトの長所と短所を補い合ったレシピです。

温かみのある白や物質感のあるホワイトを求める中級者におすすめです。

応用テクニック

  • 光の方向を決めてから白を入れる:まず作品の“光源”を決めて、その方向みに白を配すると、絵全体の統一感が高まります。
  • レイヤー構造で白を使い分ける:下層はシルバーホワイトで厚塗り、上層はシルバーホワイトとチタニウムホワイトを混ぜた油絵具(パーマネントホワイトでも可)で微調整、さらにハイライトにチタン白で“光の尖り”を出す…という構成が僕の定番です。

7|よくある Q&A(初心者のギモン)

Q1:「白をたくさん入れたほうが明るくなる?」
→ A:量ではなく、選ぶ“種類”と“使う量のバランス”が鍵です。まずは少量から試してみましょう。

Q2:「チタン白と鉛白、どちらが初心者向き?」
→ A:初心者にはチタン白の方が安心・明度も高いですが、“暖か味”を出したいなら鉛白(または代替白)を少量足すのが効果的です。

Q3:「ジンク白を使ってもいいですか?」
→ A:もちろん使えます。ただし、厚塗りや屋外作品では亀裂リスクを踏まえ、構造を整えて使うようにしましょう。

8|まとめと僕の推奨セット(初心者/中級者向け)

今日のお話を振り返ると、次のようになります:

  • 白い絵具は「ただの白」ではなく、それぞれ異なる性質を持っています。
  • 混色・乾燥・保存において、“種類を選び使い分ける”ことが作品の質を決めます。
  • 安全・構造・保存の観点も含めて、顔料選び=作品の未来を選ぶ行為です。
  • 僕のレシピを参考に、「まずは一本・試せる白」からスタートするのがおすすめです。

初心者向けおすすめセット

  • チタニウムホワイト(メインのホワイト)
  • 透明メディウム(少量)

中級者以上向けおすすめセット

  • 鉛白(または代替)+チタニウム+ジンクの3本体制
  • 速乾メディウム+保存用記録ノート
  • 展示・販売を見据えた「顔料のラベルの記載」「保存額装」

9|参考文献

以下は参考文献にします。

  • 絵具の科学改訂新版(ホルベイン工業技術部 著)
  • 油彩画の科学(寺田春弌 著)
  • “The white of the 20th century: an explorative survey into white pigments in modern art” (BA van Driel et al., 2018) (Nature)
  • “Which White Should I Use?” Pigment TOKYO Blog, Jan 9 2021 (PIGMENT TOKYO)
  • “The Zinc White Oil Paint Debate” Jackson’s Art Supplies Blog, Aug 9 2020 (Jackson’s Art Supplies)
  • “What Whites are Best for Your Oil Painting?” Natural Pigments, Apr 3 2022 (naturalpigments.eu)
  • ホルベイン公式オンラインショップ(https://holbein-shop.com/

英語の参考文献、ネット情報もありますが、

最近はGoogle翻訳もしてくれるので翻訳しながら是非参考に読んでみてください。

ホルベインから出版されている絵具の科学改訂新版は読みやすいのでオススメ。

最後に

みなさま、ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

僕も最初は「白って何が違うの?」と立ち止まっていました。

でも「白を味わう」ように扱うことで、作品はぐっと表情豊かになります。

まずは一本、白をじっくり観察してみましょう。