菱田春草作『黒き猫』は、日本画の中でも名画と言われる作品です。
そんな『黒き猫』ですが、どのように描かれたのでしょうか。
黒き猫
みなさんこんにちは、岩下 幸圓(イワシタ コウエン)です。
今回は日本画で有名な黒猫を紹介したいと思います。
なんとなく一度はみたことがある作品ですが、この作品にはちょっとしたエピソードがあるのをご存知ですか。
それはまた記事の後半で。
それではよろしくお願いいたします。
概要
作品名 | 黒き猫(くろきねこ) |
作者 | 菱田春草 |
制作年 | 1910年 |
技法 | 絹本着色 |
サイズ | 縦約151cm×横約51cm |
所蔵 | 永青文庫(えいせいぶんこ)所蔵(熊本県立美術館が寄託) |
黒き猫は菱田春草という日本画家が1910年に描いた作品です。
菱田春草は明治の日本画家で、横山大観、下村観山と一緒に、巨匠岡倉天心の弟子でした。
岡倉天心に才能を見出された菱田春草らは絵を学んでいました。
しかし春草は37歳の若さで亡くなってしまいます。
彼は同期の横山大観ほど評価はされていませんでしたが、
日本画家の巨匠、横山大観は、自分が周りに褒められるたびに、
「春草こそ本当の天才だ。もしもあいつ(春草)が生きていたら、俺なんかよりずっと上手い」と語っていたと言います。
それほど絵の才能があったんですね。
黒き猫は掛軸にされており、サイズは縦151cm×横約51cmとかなり縦長です。
技法は絹本着色と言う絹(シルク)の上に、日本画の画材(岩絵具)で描かれています。
描かれているのは黄色い目をした黒猫と柏(かしわ)の木。
黒猫が、前足で落ちないようにバランスを取りながらうねった柏(かしわ)の木の上に座っています。
まずはコチラをじっと見る黒猫に焦点を当ててみてみましょう。
斬新な黒猫の表現方法
黒猫のふわふわ感
黒猫を見てみると、ふわふわとした質感が一番最初に目につきます。
この猫の毛並みは墨のにじみで表現されています。
これは、朦朧体(もうろうたい)といわれており、当時では斬新な技法が使われています。
元々日本画は線で描くのが一般的な常識でした。
この当時の常識から外れたもやもやした表現方法は「かすんでいて、はっきりしていない」と言うことから朦朧体と批判されました。
黒猫の耳
黒猫の耳には一本一本線が描かれており、毛のふわふわ感と、耳の毛の細かくて硬い毛の質感が描き分けられています。
猫のひげ
猫のひげも一本一本描かれている上に、ひげの穴もしっかりと描かれているので、猫らしさが出ています。
柏の木の表現
猫の座っている柏の木は、黄色くなっていくので、
秋の初めごろから、冬に向けての季節の風景だと考えられます。
この作品は第四回文展(現在の日展)に出品されているのですが、ちょうど会期日が秋ごろなので、それを意識して描かれたのかもしれません。
詳しく見ていきましょう。
木の幹
木の幹は墨の濃淡だけで描かれており、ごつごつとした質感がよく出ています。
柏の葉
柏の葉の黄色い部分は金泥(金を粉末にして絵具にしたもの)で描かれています。
また、緑の部分は、緑青(緑色の銅の錆を絵具にしたもの)で描かれています。
黒猫の写実的な表現に対して、柏の木は装飾的な表現になっていて、黒猫と柏の木が何とも言えない調和を生み出しています。
何気に柏の木に虫食いがある感じがいいですね。
黒猫と柏の木の繊細な色合いは透けている絹の裏からも描くことで、繊細で深みのある色あいができます。
下の動画で熊本県立美術館が4Kで動画をアップロードされています。
黒き猫のエピソード
この作品は少し触れましたが第四回文展に出展された作品です。
しかし、最初は美人画を出品する予定だったようです。
出品予定作品ではないですがこの作品は菱田春草の描いた美人画『王昭君図』です。
白い線と黒い線で衣類を描きわけていたり、肌や髪の絶妙なグラデーションが繊細です。
(ちなみに王昭君(おうしょうくん)は、楊貴妃・西施・貂蝉にならぶ中国四大美人といわれています。)
もし美人画を出品していたらこのような美しく繊細な作品がだされていたのでしょうか。
何かしらの理由で出展をやめて代わりにこの黒猫を出しました。
『黒き猫』はそのようにぎりぎりの時間で変更されたので、
製作期間はわずか5日で描かれたそうです。
うち1日は背景の柏の木、4日は猫のために使われたそうです。
まとめ
黒き猫は、当時斬新な技法である朦朧体で黒猫のふわふわとした質感が描かれています。
それと対比するように装飾的な柏の木が表現されています。
わずか5日で製作されたのにもかかわらず、その洗練された描写力、繊細で豊かな色彩、構図の美しさが際立つ作品です。
菱田春草の他の猫
菱田春草は『黒き猫』の他にもたくさんの猫を描きました。
その猫たちを下の記事で紹介しています。
彼の絵の変遷を見ることもできるのでオススメです。
もう一匹紹介したい猫がいます。
『黒き猫』は日本画を代表する黒猫ですが、
もう一匹、日本画で紹介したい猫がいます。
こちらの記事で紹介しているので、是非猫が好きな方は見てください。
どうぶつを描けば匂いまで描くと言われた画家の渾身の猫です。
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