テンペラって何?テンペラの意味と有名作品

こんにちは、岩下 幸圓(イワシタ コウエン)です。

さて今回はテンペラについて紹介したいと思います。テンペラって聞いたことあるけど、何が使われているかわからない。

そもそも、テンペラとは何?という方にお勧めできる記事です。

実はテンペラはあの食べ物を使って作られた絵具だってご存知でしたか?

それではよろしくお願いします。

テンペラとは?

テンペラとは何か、広辞苑では

テンペラ【tempera(イタリア)】

西洋画の一種。顔料を膠質または糊の類で練って描いた絵。材料の効果としては油彩画と水彩画との中間的のもの。

岩波書店『広辞苑 第六版』「テンペラ」より引用

と書かれています。つまりテンペラとは顔料に何か接着剤を混ぜた絵具で、それを使った絵のことであると言えます。

では具体的に何を使ったのか。

実は皆さんご存知のあの丸いものです。

テンペラに使われるものはあの食べ物

テンペラは顔料と卵を使って作られます。

今日ではテンペラは

1:顔料を卵で練って作った絵具

2:その絵具で描いた絵画の技法

の意味で使われるのが、一般的な意味です。

語源はラテン語のテンペラーレ Temperare(かき混ぜる)から派生したイタリア語です。テンペラから派生した天ぷらがありますが、あれもかき混ぜて作るのでそのような名前になっているわけです。

テンペラーレ⇒テンペラ⇒天ぷら(テンペラがなまったもの)

エビの天ぷら

18世紀の中頃まではテンペラは卵以外に膠やアラビアゴム、カゼインなどで顔料を練った水彩絵具の総称でした。つまり、日本画の岩絵具も、水彩絵具もすべてテンペラでした。

さらにさかのぼると絵具のことをすべてテンペラと呼んでいました。顔料と接着剤をテンペラ(混ぜあわせた)ものが絵具なので、納得できます。

テンペラの歴史

テンペラのはじまり

卵を用いた一般的なテンペラが用いられたのは、ギリシャ、ローマより前の時代から用いられていました。

13世紀ヨーロッパの写本

特に中世の装飾写本や、ルネッサンス期にかけての祭壇画や、壁画の一部として用いられました。壁画にはフレスコと併用してテンペラを用いる技法(フレスコ・セッコ)があります。

フィリッポ・リッピ、フラ・アンジェリコ、ボッティチェリなどの名だたる巨匠たちの作品がテンペラで描かれています。

15世紀頃に油彩画が普及し始めると、テンペラは主流を外れましたが、デッサンやエスキース(下描き)に使われていました。

デューラーの素描にもテンペラが用いられています

16世紀の初めまでドイツやスイス、イタリアでは油彩とテンペラの併用が行われていました。

テンペラの再評価

テンペラが再び注目を浴びるのは19世紀中期からです。

絵を学ぶ人の愛読書として有名なチェンニーニ・チェンニーノ著作『芸術の書』を再出版したことが始まりです。

その後、英語訳、仏語訳が出版、瞬く間に美術家の間で知られるようになりました。

20世紀になるとダニエル・トンプソン、マックス・デルナーなどの研究家や画家などが、各国に散らばった伝承や文献、技術などを調査し、テンペラの技術再興をしました。

現在テンペラがあるのは先人たちのおかげだと言えます。

テンペラの種類

一般的にテンペラは卵を使います。

卵は卵白(白身だけ)、卵黄(黄身だけ)、全卵(白身、黄身すべて)があります。

卵について

卵白の場合、乾燥が早く扱いやすい。乾燥すると光沢は少なく、曲がる支持体(紙や羊皮紙)に用いると剥がれる恐れがあります。

卵黄の場合、乾燥は卵白と比べると遅いが、光沢があり、乾燥しても柔らかく、丈夫です。色が黄色味のため重くなります。

トンプソンの著書『テンペラ画の実技』や東京藝術大学の著書『絵画制作入門』、武蔵野大学の著書『絵画組成』などの最近の著書では卵黄を用いた制作方法が主に取り上げられています。

現在テンペラと言えば「卵黄を使ったテンペラ」なのかと推察できます。(卵黄のみを使ったテンペラをテンペラ・マグラと表記している場合もあります。)

テンペラ・グラッサ(オイル・テンペラ)

テンペラ・グラッサとは、油彩絵具とテンペラの中間の存在です。

卵黄に油彩絵具に使われる乾性油を加えたものです。

これにより写実的で色に深みが出るのでルネサンス中期から用いられるようになりました。

卵テンペラの比較

その他にもカゼインを用いたカゼインテンペラもあります。

細かくなりましたのでここではこれくらいにして、テンペラの有名な作品を紹介していきたいと思います。

テンペラの有名な画家と作品

フィリッポ・リッピ

フィリッポ・リッピはイタリアルネサンス中期の画家です。ボッティチェリの師匠にあたります。フラ・アンジェリコと同期の関係です。

フィリッポ・リッピの作品である『聖母子と天使』ではテンペラでは難しいとされるグラデーションを見事に表現しています。

聖母マリアの甘美な表情は思わず見とれてしまいます。

フィリッポ・リッピ作『聖母子と二天使』1465年

その他にも『聖女載冠』や『受胎告知』などもあります。

フィリッポ・リッピ作『聖女載冠』1441-44年頃
フィリッポ・リッピ作『受胎告知』1440年代

フラ・アンジェリコ

フラ・アンジェリコの有名な作品は『聖者と聖母子』が挙げられます。

フラ・アンジェリコ作『聖母と聖母子』

この作品は伝統的な左右対称性や表情の無機質さから神秘的な雰囲気を醸し出しています。

敬虔な修道士であったため、伝統を重んじた作品が多く見られます。

その他の作品には、フィリッポ・リッピと同じ画題である『聖母載冠』や『入内告知』もあります。フィリッポ・リッピとフラ・アンジェリコを比べてみるのも面白いですね。

フラ・アンジェリコ作『聖母載冠』1434-35年
フラ・アンジェリコ作『受胎告知』1426年頃

個人的にはフラ・アンジェリコ作『受胎告知』の静かな構図の中にある光の斜めの線が画面全体の良いアクセントになっているので良いなと思います。

ボッティチェリ

本名サンドロ・ボッティチェリ。

ボッティチェリがわからなくても彼の作品は一度は見たことがあると思います。

彼の代表作『ヴィーナスの誕生』や『プリマヴェーラ(春)』を紹介します。

サンドロ・ボッティチェリ作『ヴィーナスの誕生』1485年
サンドロ・ボッティチェリ作『プリマヴェーラ(春)』1477-78年

これらの作品をよく観察してみるとハッチングが使用され、その微妙な色合いの変化を描いています。

彼の集中力が凄まじいと感動します。

まとめ

身近にある卵を使用したテンペラは、言葉こそあまりなじみがないですが、意外なところで私たちとつながっています。

もしテンペラに興味が出てくだされば幸いです。

最後まで読んでくださりありがとうございました。