インプリマトゥーラ(有色下地・地透層)と白色浮出。種類と色の解説

地透層(インプリマトゥーラ)の解説と考察
地透層(インプリマトゥーラ)の解説と考察

インプリマトゥーラ(あるいはインプリミトゥーラ)についてあまり知られていないことを知り、今回サイトで考察、解説とした。私の備忘録でもあるので乱文は御容赦願いたい。

インプリマトゥーラの種類や色、それぞれのもたらす効果をここに記す。

インプリマトゥーラ(有色下地)の役割

下地の吸収性の調整

本来インプリマトトゥーラ(インプリミトゥーラ)は元東京藝術大学教授の佐藤一郎氏によると下地の吸収性を程よく調整する役割があるという。彼の日本語訳では地透層(じとうそう)として用いられていた。

これには下地に吸収性の高い白亜地や石膏地を使用していたため、絵具に含まれている油(乾性油)を吸収しすぎて、絵具の接着性を低下させてしまう短所があった。

この吸収性の調整としてインプリマトゥーラ(地透層)が使用されていた。

本来は、「下地の吸収性を調整する」と言う目的で用いられたインプリマトゥーラ(インプリミトゥーラ)だが、昨今では、役割が変化しているように感じる。

描きやすさ

インプリマトゥーラ(有色下地)とは、読んで字のごとく下地を有色にすることである。

現在よく知られている支持体であるキャンバスやパネルは、下地にホワイト(白)を施しているものがほとんどである。

これらが用いられた背景には、グリザイユ技法・カマイユ技法、そして白色浮出が深くかかわっている。

グリザイユ画法についてはかみ砕いて説明したものがあるのでそちらを参照してください。

印象派以前の写実的な絵画の描き方は基本として、立体をモノクローム写真のように描いた後(グリザイユ技法)、半透明の色のついた油彩絵具で着色をする。

つまり立体表現と色彩表現を分割して描いている。

これらは白の背景だと非常に描きづらい。(ヤンファンアイクの時代などではまた違うがここでは割愛)

そこでインプリマトゥーラ(有色下地)にすることで立体が描きやすくなる。

これが見られる例としてレオナルド・ダ・ヴィンチの作品を見てみよう。

レオナルドの作品には未完のものもあり、下地がそのまま残っているものがある。

『荒野の聖ヒエロニムス』では、茶褐色のインプリマトゥーラ(有色下地)が施されており、そこに黒や暗褐色で立体を表現している。

白色浮出

また、『ほつれ髪の女性』でも同じように茶褐色から白で立体感を描き出している。(この作品は形態素描(フォルムドローイング)と呼ばれる素描)

『ほつれ髪の女性』

このようにインプリマトゥーラ(有色下地)から白で浮かび上がらせることを白色浮出と呼ぶ。

色味の調整

インプリマトゥーラ(インプリミトゥーラ)を彩色した画面の上に乗せると、色調を調整することができる。

現在で言えば写真のフィルターと呼ばれる画像加工に近い。

全体が明るくなってしまった場合、茶褐色や黒色のインプリマトゥーラを施すことで深みのある暗い色調に変化させることができる。

そこからさらに彩色を重ねることにより、混色では生み出せない複雑な色彩が醸し出される。

インプリマトゥーラ(有色下地)の色の種類

インプリマトゥーラの色には赤褐色、黄色、黒(グレー)、緑などが歴史上用いられてきた。

赤褐色

赤褐色は白との対比が非常に行いやすいため、インプリマトゥーラ(インプリミトゥーラ)に最も向いているものの中の1つと言える。

この下地に色をのせると全体的に暗い色になるため、それらを考慮しながら描くと良い。

一度描いてみたが、非常に描きやすいので私自身も使用している。

バーントアンバーやバーントシェンナ、メーカーによってはイエローオーカーがこれに該当する。

黄土

黄土はルネサンス期からよく見られるインプリマトゥーラ(インプリミトゥーラ)で、彩度を抑えるため、落ち着いた色調の絵になる。

白色浮出をするときには絶妙な白色表現になるため、かなりの手練れでないと使用は難しいと感じる。

イエローオーカーが該当する。

通常は色味の調整、画面の流れを表現するために用いる。以前私自身絵を描く際に下地として利用したが、画面が非常に均質になってしまう。フォトリアルな絵画を描く際には効果的ではないだろうか。

わざと刷毛ムラを残すことで、画面にリズムが生まれる。

ルーベンス派が用いていた。黒色顔料系(アイボリーブラック、ピーチブラック、カーボンブラックなど)が該当する。

灰色でインプリマトゥーラ(有色下地)とした場合、グリザイユ技法が非常に行いやすい。

もし試されるならグレーのものをおすすめする。

人肌や赤色の物質の下地として用いると非常に深い色彩になる。よく人肌の影色に用いられる。

黄金背景として有名なテンペラを用いた聖画(イコン)の人物の下地としてもよく用いられた。

緑土(テールベルト)が該当する。

インプリマトゥーラの色の考察

上記で紹介した色は、安価で大量にある天然の土からできる顔料(土性顔料)ばかりである。

この理由として現代ほど合成顔料が発達しておらず、手に入りやすい色が選定されていたからだと考えられる。

現代では数多くの色彩があり、インプリマトゥーラ(有色下地)は対象物によって色を変更するのが良いと考える。

その中で、現代の画家の絵を分析してみてインプリマトゥーラに用いる色の選定方法を考察してみる。

補色

その基本形として補色、反対色と関係のある色を用いると良いのではないだろうか。

例えば緑土の場合、緑である。緑の補色として赤が存在する。そのため、肌の色や動物、トマトやパプリカなどの赤色野菜に用いると、画面の色彩に緊張感と深みが増す。また、影に用いることで網膜上では黒と認識され、深みのある影の表現になる。

他にも近似色を選択する方法もある。

近似色

例えば海を描こうとする。海は青、青の近似色として紫が存在する。実際、下地で紫(から青の間の色)を選定し、それをインプリマトゥーラにした海の絵を拝見した。

非常に色の調和性や、網膜上の混色がよく出来ていて、全体として調和し落ち着いた画面になっていた。

ランダム

様々な色を下地にべたべたと塗って有色下地とする画家も存在する。

完成した作品自体は褐色が強い作品なのだが、何とも言えないリズム感を感じた。

このように現在インプリマトゥーラ(有色下地・地透層)を用いる場合、既存のものだけではなく様々な色彩を用いると、より深みのある色調の絵が描けるのではないだろうか。

まとめ

インプリマトゥーラの色については画家の好みや、表現したい意図によってさまざまな表現方法がありあります。

アクリル絵具でインプリマトゥーラのやり方を紹介しています。

また、油絵具などでインプリマトゥーラの具体的な処方については下の記事に掲載しています。

最後までご覧いただきありがとうございました。

2件のコメント

芝 教純 より:

質問をいたします、白亜地にインプリマトゥーラをする場合その液の組合せはいろいろ有ろうとは思うのですが何をどんな割合に混ぜるのが一般的なのでしょうか?

coeniwashita より:

遅れて申し訳ありません。ご質問ありがとうございます。
インプリマトゥーラについては、一般的な処方と言うのが一概には言えません。(画家によって好みの吸収性・比率が異なるため)
芝様が白亜地の上に何の画材(油絵具、水彩絵具、卵テンペラなど)によって描かれるかによっても異なります。そのなかで私が知りうる汎用的な処方例を挙げます。
1:油絵具の場合
  ダンマル(ダマール)樹脂溶液の例と、乾性油の例があります。
  1-1:ダンマル樹脂溶液の場合、ダンマル樹脂1gを、テレピン4mlで溶かしたものを使用します。
      ダンマル樹脂溶液:テレピン=1:4
      これは、某有名藝術大学でも採用されている溶液比率です。樹脂を用いるので、上の層の絵具の食いつきが良いと思います。
  1-2:乾性油の場合、乾性油に対して、2倍~3倍のテレピンで希釈したものを用います。
      乾性油:テレピン=1:2~3
      この処方は汎用性が高いので、芝様が上層に用いられる乾性油(リンシードオイルなど)に対して、2~3倍のテレピンで希釈したものが良いと考えます。
      油絵具の基本原則である、「上層に行くほど乾性油の比率を高くする」を守るためにも2~3倍の希釈量が妥当だと考えます。
      有名な画家の方もこの処方を用いています。
2:水彩絵具・アクリル絵具・卵テンペラ等「水性」の場合
   これは膠溶液一択です。白亜地を製作する際には膠1に対して水10~12倍が用いられる場合が多いですので、それと同じ比率で膠溶液を塗ると良いかと考えます。
   私はこの処方で行っておりますが、吸収性が程よく、不具合も見られません。
   油絵具にも用いることができますが、その場合、しっかり乾燥していることを確認してください。
   膠の比率が高すぎると、ひび割れや後日の劣化を早めることになります。
3:その他
   筆者自身が卵やアクリル絵具を用いたこともあります。いずれも程よい吸収性がありますが、後日変化は不明のためここでは割愛させていただきます。

以上になります。

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