水彩絵具とはなに?特徴と有名な作品。アクリルとは何が違うの?

こんにちは!、岩下 幸圓(イワシタ コウエン)です。

今回はすいさいえのぐ(水彩絵具)について紹介していこうと思います。

一度はみなさん使用したことのある水彩絵具ですが、わたしのまわりで歴史やアクリル絵具との違いを知らない人がいます。

そこで、水彩絵具ってなに?知ってるけど歴史ってあるの?など、水彩絵具をもっと深く知りたい方に向けて、かみ砕いて説明しようと思います。

実は水彩には二つのものがあること、あの作品も水彩絵具だったりします。

それらを解明しながら話を進めていきましょう。それではよろしくお願いします。

水彩絵具とは

水彩絵具とは広辞苑によると

すいさい-えのぐ【水彩絵具】

水で溶いて彩色する絵具。

岩波書店『広辞苑 第六版』「水彩絵具」から引用

と記載されています。…そのまんまですね。

出典を変えて『日本工業規格』によると

顔料に水溶性展色剤(グリセリン,アラビアゴム,にかわなど)を混和して練り合わせたもの

『日本工業規格』「水彩絵具」より引用

つまり、水彩絵具は「水に溶ける接着剤を使った絵具」であると言えます。

アクリル絵具の場合は接着剤(展色剤)がアクリル樹脂という合成樹脂であるため、その特徴が異なります。

詳しくは別記事にありますので良ければそちらをご覧ください。(別タブで見ることができます。)

さらに水彩絵具には透明水彩と不透明水彩(ガッシュ)の二種類があります。

このふたつにはどのような違いがあるのでしょうか。

透明水彩と不透明水彩(ガッシュ)の特徴と違い

特徴

透明水彩と不透明水彩(ガッシュ)にほとんど違いがないと言われています。

水彩画と聞いて、なんだか透明感があってきれいな色合い絵だなとなんとなくイメージするそれは透明水彩で描かれたものです。

透明水彩の特徴として下地を透かして見せる透明感のある描き方が出来るのが特徴です。これが日本でいう水彩画に相当します。

不透明水彩(ガッシュ)の場合、下を塗りつぶして厚みのある表現ができます。

透明水彩と不透明水彩(ガッシュ)はどうしてこのような違いがあるのか。

違い

この二つの違いには、顔料と接着剤の量の違いがあります。

透明水彩の場合顔料は少なく、接着剤の割合が大きい。そのため、下地が透けて透明感のある絵になるわけです。

反対に不透明水彩(ガッシュ)の場合顔料が多く、接着剤の割合が少なくなる。そうすると、下地は水彩絵具の顔料に覆い隠されるのです。

この違いによって特徴が異なってくるわけですね。

水彩絵具の歴史

水彩絵具の起源-ガムテンペラ

水彩絵具の原型ともいわれるガムテンペラは、顔料にアラビアゴムを混ぜたものです。なのでガム(アラビアゴムを)テンペラ(混ぜた)と呼びました。

テンペラには卵を混ぜたものもありますがここでは省略します。

ガムテンペラは中世の彩色写本(絵付きの本)に用いられました。

この当時使われていた羊皮と呼ばれるものは水で溶かしただけの顔料では彩色することが出来ません。そこでアラビアゴム(や膠)を入れることで彩色することが出来るようになりました。

13世紀ヨーロッパの彩色写本

この絵具は下地を塗りつぶすことができるので不透明水彩(ガッシュ)といえるでしょう。

つまり不透明水彩(ガッシュ)が最初にヨーロッパで作られ使用されていたのです。では、透明水彩絵具はいつ登場したのでしょうか。

近代工業の発明「透明水彩絵具」

透明水彩絵具の登場は、近代を象徴する出来事でした。

透明水彩には人工的に作られた細かい粉末の顔料、グリセリンが使用されています。これらは工業的に作ることしかできませんので、近代になってやっと透明水彩絵具が登場できたのです。

グリセリン組成図

グリセリン【glycerine】

代表的な三価のアルコール。甘味のある無色の液体。石鹸製造の副産物としてして得られる。工業的にはプロプレンから合成。水によく溶ける。ニトログリセリン(爆薬原料)・アルキド樹脂の製造、医薬、化粧品などに用いる。

岩波書店『広辞苑 第六版』「グリセリン」より引用

水彩絵具は1790年代にイギリスのロンドンで市販されるようになりました。

白の登場

水彩絵具には欠点がありました。

それは白がないことでした。

その当時、白といえば鉛白(エンパク)でしたが、水彩絵具に入れると黒ずんでしまいます。

1790年前後に、亜鉛華(あえんか)が量産され、顔料として使用されました。

粉状の亜鉛華

これにより白が黒ずむことはなくなり、水彩絵具の欠点は解消されたのです。

技法書の販売

ちょうど同じころロンドンに絵具屋が登場していました。

そこでは水彩絵具の販売促進として技法書も一緒に販売、その結果アマチュア水彩画画家が続出しました。

さらにイギリスは水彩絵具が生まれた場所ですので、イギリスで水彩画家が輩出したのも頷けます。

チューブ式水彩絵具の発明

1840年、化学者のW・ウィンザー(現在のウィンザー&ニュートンの設立者)によってチューブの原形が開発されました。当時のチューブは金属製で注射器のような形だったと言います。

初期のシリンダー式チューブ絵具:先端から絵具を押し出すように使われる。使い切ったら画材屋さんで充填してもらう。

しかし、水彩絵具の主流は1950年代に入るまで西洋東洋問わず、固型や半固型の製品でした。

日本の水彩絵具の普及

チャールズワーグマンの自画像

日本への水彩絵具の普及はイギリスの画家チャールズ・ワーグマンによって透明水彩が紹介されたのが始まりです。

チャールズワーグマンのイラスト。彼は今でいう報道カメラマンの仕事をしていた。

1900年代に、日本の水彩画の名著である大下藤次郎著作の『水彩画之栞』が水彩画普及に大きく貢献しました。

日本には先に透明水彩絵具とその技法が輸入されましたが、伝統的な不透明水彩(ガッシュ)は1930年代に注目され始めました。

1950年代になると学校用の教材として水彩絵具が使用されるようになり、私たちの時代まで、水彩絵具は愛されています。

YOUTUBEで調べていた時に見つけたロンドンにある画材屋さん。充実しています。

水彩画で有名な画家・作品

J.M.W.ターナー

J.M.W.ターナー(ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー)はイギリスで最も偉大な水彩画家といわれています。水彩画といえばターナーといっても過言ではないでしょう。

『トラファルガーの戦い』では、水彩画ならではの透明感のある光が見て取れます。

ターナー作『トラファルガーの戦い』1822年

彼の代表作『雨、蒸気、速度――グレート・ウェスタン鉄道』では黄色と青色を主に使用した風景画です。彼は黄色を好んで使用しているので、その傾向もみてとれます。

ターナー作『雨、蒸気、速度――グレート・ウェスタン鉄道』、1844年

雨や蒸気や速度を水彩画の透明感で表現している様は、抽象画にも見えます。

アルブレヒト・デューラー

アルブレヒト・デューラーといえば、この自画像が有名です。びじゅチューン!でも1500年のオーディションの元ネタにされていますね。1500年のオーディション(動画が別タブで開きます)

アルブレヒト・デューラーはドイツのルネサンス期の画家です。

彼の作品の中で不透明水彩と透明水彩をうまく組み合わせた『野ウサギ』があります。

野ウサギ一本一本の毛が細かく描かれていて、すさまじい観察力と集中力がうかがえます。

アルブレヒト・デューラー作『野ウサギ』1502年、透明水彩と不透明水彩(ガッシュ)

また『芝草』も透明水彩と不透明水彩(ガッシュ)が使用されています。

この作品の奥や視点が外れるところに水彩絵具の透明感を活かした表現がなされていて、存在感のある作品になっています。

アルブレヒト・デューラー作『芝草』1503年、透明水彩と不透明水彩(ガッシュ)
アルブレヒト・デューラー作『蟹』1495年、透明水彩と不透明水彩(ガッシュ)

この『蟹』のごつごつ感や立体感、わずかに感じる左右対称性はアルブレヒト・デューラーの理論的な造形美が垣間見えます。

まとめ

透明水彩と不透明水彩(ガッシュ)というふたつの水彩絵具は、その透明感、存在感で私たちを楽しませてくれる絵具です。

水彩画を鑑賞するときに、これは透明水彩かな、不透明水彩かなと考えながら見てみると楽しいかもしれません。

最後まで読んでくださりありがとうございました。