『 ベリー公のいとも豪華なる時祷書』。世界で最も美しく高価な本。

今回は日曜美術館でも紹介された『ベリー公のいとも豪華なる時祷書(じとうしょ)』を紹介したいと思います。

別名「ベリー公のいとも美しき時祷書」ともよばれています。

世界一豪華で美しいと言われている本ですが、

一体何が描かれていたのでしょうか。

番組では紹介されなかった部分も詳しく解説したいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

ベリー公のいとも豪華なる時祷書の概要

タイトルベリー公のいとも豪華なる時祷書
(べりーこうのいともごうかなるじとうしょ)
作者ランブール兄弟、ほか
制作年1485年-1489年頃
材料/技法羊皮紙・ガムテンペラ彩色
寸法30㎝×21.5㎝
所蔵コンデ美術館

この作品は「世界で最も美しい装飾写本」として名高く、全206ページある羊皮紙製の本です。

ベリー公ジャン一世は中世フランス王国の王族で、部下たちに作らせたのがこの作品といわれています。

最初はランブール兄弟という画家の兄弟が描きましたが、

途中で亡くなってしまったので

他の画家たちによって完成しました。

現在ははシャンティイ城にあるコンデ美術館附属図書館に所蔵されています。

シャンティイ城:とてもきれいなところですね。

時祷書とは何?

作品のタイトルにもなっている時祷書(じとうしょ)とは、中世のキリスト教の祈祷するための文章(祈祷文)や、詩をまとめたものです。

また、キリスト教信者であるための信仰や日課を記したものです。

『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』では

内容掲載ページ
月々の行動を示すカレンダー1-13
黄道12宮と解剖図14
福音書の朗読17-19
聖母への祈り22-25
人間の堕落25
聖母早課の時間26-60
詩編61-63
悔い改めの詩編64-71
十字架の時間75-78
精霊の時間79-81
死者の儀式82-107
平日の短い儀式109-140
ローマの計画141
受難の時142-157
典礼年のミサ158-204

の内容で構成されています。難しい宗教単語もありますが、典型的な「中世キリスト教の教科書」と認識してくださればよいです。

日曜美術館では、「月々の行動を示すカレンダー」と「黄道12宮と解剖図」が主に取り上げられていましたね。ここではこのふたつをさらに詳しく解説したいと思います。

12月カレンダー

1月

1月は人々がごちそうを食べています。これは新年の祝賀式を表現しています。

この作品の中に出る登場人物はベリー公の家族と言われており、贈り物を交換し合っています。青い服で最も大きく描かれているのがベリー公です。

2月

2月には薪を集めている人、暖を取っている人が見えます。

羊たちが身を寄せ合い、

冬の厳しさを物語っていますね。

3月

3月は畑を耕している様子が見られます。

左上の空には薄暗い雲が迫ってきています。雨の予兆を感じます。

手前の牛を使って畑にうねを作っている様子が見て取れます。

種まきをする準備でしょうか。

寒さを感じながらも春に向けての希望が見える一枚です。

背景に描かれているお城はリュジニャン城と呼ばれています。現在でもフランスに重なる歴史があるリュジニャンがあります。

フランスにあるコミューン・リュジニャン:どことなく似ています。

また、右上の空には黄金のドラゴンがいます。后であるメリュジューヌがドラゴンとなり、お城を守る伝説から描かれています。

メリュジューヌ伝説

ある時メリジューヌという女性に恋をしたレイモン伯爵は

結婚を迫ります。

メリジューヌは結婚しますが、条件として

「土曜日に自分の姿を見てはいけない」

ということを約束します。

そしてしばらくすると、彼は多くの富を手に入れることができ

二人の間からは10人ものこどもをもうけることができました。

そして、リュジニャン城を建て、町ができました。

しかし、あるとき妻への悪い噂を聞き、その真実を探ろうと

妻との約束を破って、沐浴中の妻の姿を見てしまいました。

何と彼女は上半身が人間、下半身が蛇(または魚)の姿の

怪物だったのです。

約束を破られたメリジューヌは竜(ドラゴン)の姿になって城を飛び出していきます。

しかし、子どもがまだ小さかったため、

授乳のために白に戻ったり、城主たちの親族が無くなる直前にも

戻ったりとしています。

『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』にはそんな彼女が

授乳か見舞いにきたときの竜の姿を描いているのではないでしょうか。

4月

手前の人物は高級な服装をしています。

よく見ると模様が描かれています。

横幅15センチほどしかないのでその細密さが

伺えます。

細密さでいえばヤンファンエイクと並んでいます。

春、貴族の男性と女性が婚約指輪を交わしています。

男性が女性に婚約指輪を送り、

誓いの言葉を言います。

美しく春にふさわしい情景です。

5月

トランペットを吹いている貴族たちが目につきます。

これは「若葉狩り」と呼ばれる行事を表現していると考えられています。

若葉狩り

若葉狩りとは若葉で作られた襟飾りを付けて行う行事です。

男性がつけている場合「恋の不意打ちをあなたに食らわせます」

女性がつけている場合「愛を受け入れる準備はできています」

という意味になるそうです。

今でいうところのバレンタインデーとホワイトデーに似ています。

4月にも登場した男女なのでしょうか。

赤色のサンゴのアクセサリーを付けた女性が

画面の中央にいます。

6月

6月になると再び農業の様子が描かれています。

画面奥の男性たちは

鎌を振って草刈りをしています。

画面手前の女性は

草刈りをした草を集めています。

この作業は夏草の刈り入れという大事な作業と言われています。

7月

7月も続けて農民の様子が描かれています。

川を挟んで二つの作業が見て取れます。

手前の農民たちは羊の毛刈りを行い

奥の農民たちは小麦の収穫が見てとれます。

8月

8月になると貴族の様子が描かれています。

彼らはタカ狩りに行っているようです。

鷹狩り

鷹狩りとは鷹を使って動物たちを捕獲する狩りです。

当時は貴族だけに許された娯楽でした。

隠されたメッセージ

実はこの画面にはあるメッセージがあるとされています。

タカは男性を象徴し、毛の長い犬は女性を表しています。

その二匹が仲よくしている=男女が仲良く森へ楽しく過ごす喜びを表現しています。

また貴族が5人描かれています。

これは「愛」を象徴しているとされています。

この当時「愛」は人間の五感を満たすものとされており、

5人の貴族が楽しんでいる=五感が満たされている=愛

という意味になるわけですね。

いわゆるヴァニタスやシンボルと言うことですね。

西洋絵画では結構使われる手法です。

9月

9月になると今度は農民の生活に移ります。

手前の畑にはたくさんのブドウを収穫しています。

これからワインを作るのでしょうか。

奥にはソミュール城がたっています。

10月

10月になると、収穫が終わった畑に新しい種を植えています。

背景にあるお城は

ルーヴル宮殿とされており、

ルーヴル宮殿は現在のルーヴル美術館になっています。

11月

11月になると、何やら男の人が木の棒を持っています。

これは木の棒でドングリの木をたたいたりなげることで

ドングリの実を落として

家畜の豚にドングリを与えている風景です。

豚にやたら毛が生えていますが、

これはもともと豚のルーツが猪なので

この作品に描かれている豚は

猪が豚になっていく途中の姿だと考えられます。

この豚は太らせたら、肉を塩漬けにして

寒い冬を乗り越える食料になります。

この保存方法はのちのちハムやベーコン、ソーセージ

などの加工食品の製法へとつながっていきます。

12月

12月になると犬によるイノシシ狩りが行われています。

占運学的人体(黄道12宮と解剖図)

個人的には世界一美しい人体解剖図ではないかと思います。

黄道十二宮という太陽が通る道(黄道)にそって

出てくる十二の星座を人体解剖図と一緒に表したものです。

星座占いでよくもちいられる

おひつじ、おうし、ふたご、かに、しし、おとめ、てんびん、さそり、いて、やぎ、みずがめ、うお

のそれぞれの星座に対応しています。

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)

頭には、牡羊(おひつじ)座

首には牡牛(おうし)座

両肩には二人の男女が乗っており双子(ふたご)座

鎖骨の少し下には蟹(かに)座

心臓に当たるところには獅子(しし)座

少し下には乙女(おとめ)座

お腹のあたりには天秤(てんびん)座

生殖器のところには蠍(さそり)座

腰のところには射手(いて)座

膝のところには山羊(やぎ)座

ふくらはぎのところには水瓶(みずがめ)座

最後に足のところには魚(うお)座

が配置されています。

それぞれの星座にはそれぞれの部位を司っていると考えられていたので

このように配置されているんですね。

また、十二星座は一年を表しており、

十二月カレンダーでは上の青色の部分には

それぞれに対応する星座が描かれています。

もしお時間あれば見てみてくださいね。

最後までご覧いただきありがとうございました。