レーキ顔料の作り方(コチニール編)

今回はコチニールカイガラムシを使った顔料を作ろうと思います。

顔料名的にはクリムソンレーキ(クリムゾンレーキ)、

カーマインレーキと言われる

赤紫の色合いの顔料です。

いうなれば真正コチニールレーキ(天然のコチニールレーキ)と言えるでしょう。

コチニール顔料は日本画用として販売されていますが

今回は自分の経験をかねて自作してみようと思います。

何通りか作っていいなと思った

レーキ顔料の作り方ができてきたので

その情報を皆さんと共有しようと思います。

それではよろしくお願いします。

レーキ顔料ってなに?

この記事を読んでいる方には

そもそもレーキ顔料ってなに?

と言う方がいるかもしれません。

レーキ顔料は簡単にいってしまえば

[su_highlight background=”#fbf808″]染料を水や油に溶けないように処理した顔料[/su_highlight]です。

水や油に溶けてしまう(水溶性の)染料を

沈殿させたり、くっつけたりして

水や油に溶けないように(不溶性に)

置き換えた顔料のことなんですね。

絵の具にすると使い勝手が悪い染料を

顔料にすることで、油絵具やアクリル絵の具など

にしたときに使い勝手のよいものになるわけです。

細かく言えばいろいろとありますが

レーキ顔料の説明はこのくらいにして

具体的な作り方を紹介・解説していきます。

コチニールカイガラムシについて

コチニールカイガラムシは南米のペルーで

採取されている虫です。

ウチワサボテンに寄生して、その汁を吸います。

オスとメスがいますが、染料になるのはメスだけ

それを採取して、乾燥させたものが、

染料店などで販売されています。

レーキ顔料の作り方

今回はコチニールカイガラムシを使って

真正コチニールレーキ(天然のコチニールレーキ)

顔料を作ろうと思います。

使う素材・道具

この章ではレーキ顔料を自作するさい、

実際に使った素材や道具を紹介しています。

色々と代用できるものもあるので参考にしてください。

素材重量
コチニールカイガラムシ10g (ネットの染料店で販売されています。 10gない場合5gでも良い。
生ミョウバン10g ・組成名称は硫酸カリウムアンモニウム。 ・これも染料店で購入した。 (ドラッグストアなど で販売されている 焼きミョウバンの場合、 半分の重量で計算する。 今回の場合10/2=5gとなる)
ソーダ灰5g ・組成名称は無水炭酸ナトリウム。 (生ミョウバンの半分の重量にすること。今回の場合10/2=5g)
水(軟水)1400ml ・1000mlは染料液を作るために ・200mlは生ミョウバン溶液、ソーダ灰溶液を作るために使う。 ・残りの200mlは予備用。 日本の場合、水道水で可。 (カルキなどが気になる方は浄水を推奨します。)
道具備考
鍋(火にかける容器)ステンレス、ホーロー、ガラス素材の容器のみ使用すること。 (アルミ、銅、鉄などは染料の色が変化する可能性がある。) ・大きさ(容量)は1リットル以上入るものにすること。
乳鉢・乳棒素材をすりつぶすために必要です。 優先度は高くないので、ない場合はなくても良いです。
容器熱湯に耐えられる耐熱容器ならなんでも可能です。 何個か用意しておくと便利です。 火にかける容器と同様に アルミ、銅、鉄は避けること。 今回はガラス製ビーカーを何個か使いました。
キッチンスケール重量を量ります。2キロくらいまで計ることができればよいです。
スプーンいろいろと混ぜるときに使います。 容器と同様、アルミ、銅、鉄などは避ける。 ステンレス製品なら可能です。
コーヒードリッパーコーヒーフィルターを支えるためのものです。 ペットボトルを加工してろ過器を作っても代用可能です。
コーヒーフィルターレーキ顔料をろ過するときに使用します。 キッチンペーパーでも代用可能です。

レーキ顔料を作るための大まかな流れ

レーキ顔料を作る大まかな流れ(工程)は

  1. 染料液を作る
  2. 染料を顔料にする(レーキ化)。
  3. 沈殿物(レーキ顔料)をろ過する。
  4. レーキ顔料の乾燥

の4つが大まかな流れです。

では詳しく見ていきましょう。

1.染料液を作る

下準備

コチニールレーキ顔料をつくる工程は

まずは染料のもとになる素材である

コチニールカイガラムシを

乳鉢と乳棒ですりつぶします。

ある程度すりつぶしたら

(後日、すりつぶさず、

そのままの形で染料を抽出してみても

特に問題はなかったので、

この工程は省いてよいです。)

コーヒーフィルターなどにいれ

糸で縛って包み込みます。

ティーパック、不織布、ガーゼ、メッシュ生地などに入れるのもいいですね。

これはコチニールカイガラムシをメッシュ生地に入れて
糸でくくったもの。

コチニールカイガラムシは下のサイトで購入しました。

紡ぎ車と世界の原毛アナンダ

染料液をつくる

では染料液を作っていきましょう。

容器に1リットル(1000㎖)の水を入れ

先ほどのコチニールカイガラムシを

投入します。

次に火をつけて沸騰するまで温度を上げます。

ブクブクしてきたら弱火にして15分間煮だします。

煮だし終えたら火を消します。

色がだんだんと出てきて染料液ができてきます。

煮だした様子。染料が出ています。

蛇足ですがほかの植物で

染料液を作る場合、

沸騰させてはいけない場合があるので

もしそれらで作る場合、

温度計か、

温度を調整できる電気コンロ(IH)

を使用してください。

染料液ができたら一旦放置して、

ミョウバン液を作ります。

ミョウバン溶液を作る。

新しく容器を用意して

生ミョウバン10gと沸騰させた

水100mlに入れて透明になるまで溶かします。

かき混ぜているとだんだんと

粒や結晶がなくなっていきます。

染料店では天然の生ミョウバンを購入しました。
こういう風に結晶状態になっています。
すりつぶしたりと手間になるので、
生ミョウバンや焼ミョウバンは粉末のものを買いましょう。

後日足りなくなったので、ミョウバンは買い足しました。

ソーダ灰溶液を作る

生ミョウバン液と同じように

ソーダ灰液を作ります。

新しく用意した容器に

ソーダ灰5gと100ml

の沸騰させたお湯をいれて

透明になるまで混ぜます。

粉末がなくなり生ミョウバン溶液と
ソーダ灰溶液が透明になりました。

ではいよいよ染色液にいれていきましょう。

2.染料を顔料にする(レーキ化)

まず生ミョウバン溶液を染料液に投入します。

投入し終えたらスプーンやヘラでかき混ぜます。

次にソーダ灰をいれていきます。

ソーダ灰溶液をいれたとき

炭酸水のようにシュワシュワと反応をします。

ソーダ灰を入れるとシュワシュワと反応し始めます。

もし反応しなかった場合

このシュワシュワとした反応がなんか

少ないなと思ったら、

再び生ミョウバン液

(10gに100mlの熱湯)を作り、

染色液へ投入します。

(結局私の場合、10+10=20グラムの生ミョウバンを使いました。)

少しかき混ぜます。

場合によっては、ソーダ灰溶液も加えてください。

少しずつ加えていきましょう。

沈殿するまで放置する

シュワシュワと反応が終わると

だんだんと上澄みと沈殿物が分離していきます。

別の容器で作っていたレーキ顔料。
画像ではわかりずらいですが、
染料液がヘドロのようになってきています。

上澄み液と、レーキ顔料がほとんど分離するために

1時間ほど放置しましょう。

1時間ほど放置したもの。
上澄みと、レーキ顔料が分離しています。

上澄みが半透明になっている場合

上澄みが水のように透明ではなく、

色のついた半透明になっている場合があります。

これはミョウバン水溶液、ソーダ灰水溶液

が不足している可能性が高いです。

なので、もし半透明が気になる場合、

ふたたび水溶液を入れて様子を見てください

こんな感じです。
染料の一部が水に溶けたままのため、
上澄みに色を付けて半透明になっています。

気にしない人はそのままでも良いです。

3.沈殿物(レーキ顔料)をろ過する。

次に泥のよう沈殿している

レーキ顔料をろ過していきます。

コーヒーフィルターでレーキ顔料をこしていくと

下にろ過された水が落ちていきます。

これには1日かかる場合もあるので、1日放置します。

私の場合、コーヒーフィルターと

コーヒードリッパーだけでは足りなかったので

ペットボトルを切った自作のドリッパーと、

キッチンペーパーを二枚重ねた

自作のフィルターでろ過しました。

不格好ですが、
充分機能を果たしています。

キッチンペーパーのフィルターの作り方

念のためキッチンペーパーの折り方をのせておきます。

1三角形をつくる

2反対側も折る

3開いて、ペットボトルのドリッパーに差す

一日放置したら、このように

ねっとりとしたレーキ顔料のペーストが完成します。

もしアクリル絵の具や水彩絵の具に

使う場合はこのまま混ぜてもよいですが、

私の場合、油絵具に使うので、完全に乾燥させて

粉末のレーキ顔料にします。

4.レーキ顔料の乾燥

完全に乾燥させます。

コーヒーフィルターやキッチンペーパーを開いて

平べったくさせます。

その後、大体3日か4日乾燥させます。

私の場合、木の板の上にコピー用紙をのせ

その上にコーヒーフィルターをのせました。

(木の板は吸収させるため、コピー用紙はレーキ顔料が木の板に吸われすぎないために置きました。)

乾燥させるとこのように、

干からびた水田のようになります。

完全乾燥させたレーキ顔料。

完成

いよいよ完成です。

完全に乾燥したレーキ顔料を

コーヒーフィルターからかきとり

引き剥がします。

引き剥がしたレーキ顔料

引き剥がした状態の場合、

塊のようになっているので、

乳鉢と乳棒ですりつぶして、

粉末状態にすれば乾性油と混ぜて

油絵具にすることができます。

すりつぶして完全なレーキ顔料にしました。

今回できたコチニールレーキ顔料は、

結果的に13gできました。

まとめ・感想

今回はコチニールカイガラムシを使った

真生コチニールレーキ顔料を作りましたが、

コチニールカイガラムシのかわりに

西洋茜を使いマダーレーキ(真正マダーレーキ顔料)もつくることができます。

またコチニールレーキ顔料のほかにも、

マダーレーキ顔料や

土から顔料を作ってみようと思います。

作った感想として、もっと赤い色をイメージしていましたが、

濃紫から薄紫までのきれいな色のレーキ顔料になりました。

油絵具の場合、乾性油と混ぜると何トーンか暗くなるので

コチニールの分量などを調整して、

油絵具に使用した時の理想の色を追求したいと思います。

備考

ここでは一通りレーキ顔料作りの実験をしてみて

改善点や備考がいくつか出てきました。

もし実践するかたがいらしたら下の記述も参考にしてください。

コチニールカイガラムシの量

今回は10gのコチニールカイガラムシを使いましたが、

少し多かったのか染料が余ってしまいました。

草木染めの染料についての

文献をいくつか読んでみると

コチニールカイガラムシは

かなりの色素を出すので、重量が少なめでした。

なので半分の重量(5g)でもよかったかなと思います。

(多いにこしたことはないですが、

これは追加の実験が必要です。)

生ミョウバン、ソーダ灰溶液の分量

レシピ通りだと、10グラムの生ミョウバンと5グラムのソーダ灰溶液でしたが、結局15gの生ミョウバン、8gのソーダ灰を使ったので、

はじめから多めに

20gの生ミョウバンに200mlの熱湯、

10gのソーダ灰に200mlの熱湯を加えたものを

作っておけばよかったなと思いました。

手間はほとんど変わらないので多めに作っておけば

追加の溶液を作る手間が省けるのでよかったなと思いました。

(次回の製作ではこのように行います。)

焼きミョウバンを使う場合

焼きミョウバンを使う場合、文献を調べてみると

大体二分の一の容量(生ミョウバン10グラムだったら、焼きミョウバン5グラム)が妥当だと考えられます。

これだとソーダ灰の重量と一緒になるので、

焼きミョウバンを使った方は数値が

統一されてミスが少なくなると考えます。

生ミョウバン溶液とソーダ灰溶液をいれる順番

基本的に生ミョウバンを優先していれてください。

最初の生ミョウバン水溶液、ソーダ灰水溶液投入後、

追加の生ミョウバン水溶液を加えると

シュワシュワと反応が強くなるので、

最初に生ミョウバンをいれて

様子を見るといいかなと思います。

染料液って温かいほうが良いのではないか。

熱いうちにミョウバン溶液とソーダ灰溶液を

入れたほうがいいのではないかと考えて、

いろいろと行いましたが、

別に冷たい状態(常温)でも充分反応していたので、

温度はあまり重要な要素ではないのかなと思いました。

もしレーキ顔料を作っている方で

温度で反応が変化をするということがありましたら、

ご教授願います。今後の改善点にします。

参考文献

今回参考にした主な著書は

  • “Nnatural Colorants for Dyeing and Lake Pigment”Jo Kirby
  • 『新版 草木染 四季の自然を染める』 山崎 和樹

を参考文献にしました。

(ほかにも参考にした文献はありますが、他の文献は知識として蓄えたのみだったので省略。)

“Nnatural Colorants for Dyeing and Lake Pigment”Jo Kirby

は英語ですが、

レーキ顔料について詳しく掲載している

数少ない書籍なので、

レーキ顔料を本気で学びたい人は参考にしてください。

(日本語訳バージョンが出版されることを楽しみにしています。)

最後までご覧いただきありがとうございます。

他にも記事を掲載しているので、そちらも是非ご覧ください。

追加実験予定

ここは私の個人的な追加実験予定を記しています。

個人的なメモ(別でメモを書くと忘れてしまう可能性があるため)

もしご興味あれば見てください。

ミョウバン水溶液及びソーダ灰溶液濃度によるコチニールレーキ顔料の色変化

今回は文献に記載されているオーソドックスなレシピで作りました。

もしミョウバン溶液やソーダ灰溶液がオーソドックスな濃度よりも高濃度あるいは低濃度の場合、

色相や反応に変化があるか観察したいと考えました。

コチニールカイガラムシ染料液の濃度によるレーキ顔料の色変化

10g/1000ml濃度の染料液でコチニールレーキ顔料を作った場合(沸騰による水分蒸発量は省略)、

赤紫色のレーキ顔料が完成しました。

その後、コチニールカイガラムシが

もったいないと思い、再び1000mlのお湯で染料を抽出し、レーキ顔料を製作すると

トーンの変化が見られました。

実験では一番液は4g、二番液は9グラムのレーキ顔料収量になりました。

このことから、染料液の濃度の差による色味の変化があると考えられ、追加の実験が必要だと考えます。

他の添加物による色味の色変化

アルミ触媒や、鉄触媒、食酢を添加した場合、レーキ顔料の色味が変化する可能性が高いことが考えられます。

コチニールカイガラムシの場合、水溶性の染料で

アルミ触媒(ミョウバン)の場合、今回のような赤紫になりますが、

鉄触媒にした場合、黒色になります。

また、食酢を添加すると、赤みがかった色味になると記述されており、

レーキ顔料でも同様の変化があるのか追加の実験が必要だと考えます。

アルコール抽出によるレーキ顔料生成

今回は水で染料を抽出しましたが、

アルコール抽出した場合、レーキ顔料が生成できるのか

実験してみたいです。(単純な好奇心)