油絵の描き方。リアルな花(バラ)の描き方を紹介。グリザイユ編

みなさんこんにちは、岩下 幸圓(イワシタ コウエン)です。

今回は「グリザイユで油絵を描く」ということで花を描き方を解説しながら、紹介したいと思います。

この記事を見つけてくれた方は「グリザイユ」という単語がなんとなく知っている人がいるかもしれません。

知らない人のためにもグリザイユというものはそもそもどのように描くのかも紹介しながら、深掘りしていきましょう。

それではよろしくお願いします。

この記事では

  • グリザイユの意味
  • グリザイユの歴史
  • グリザイユでリアルな花(バラ)の描き方・工程

を紹介していきます。

グリザイユの意味

グリザイユとはフランス語の「Grisaille」から由来がきています。

この単語を調べてみると

➊ 〖美術〗 グリザイユ,単色画:灰色の濃淡のみで立体感を出す画法.

➋ 灰色の色調[風景];単調,味気なさ.

プログレッシブ 仏和辞典 第2版『グリザイユ(Grisaille)』より引用

つまり、グリザイユとは、灰色だけで立体感を描く技法のことなんですね。

ちなみにフランス語でGrisは「グレーの」と言う意味があります。

このグレーの単色で描くので単色画とも言います。

ちなみにですが、カマイユと言うものもありますが、あれはグリザイユの親のような存在です。

グリザイユの歴史

そんなグリザイユですが、どのように発展して、

現在の私たちが知るようになったのでしょうか。

イミテーション(模造)として使われた

グリザイユが発達した経緯

本来、グリザイユは彫刻のイミテーション(まがいもの・偽物)として使用されていました。

壁や床、天井などに彫刻をしようと思うと、かなりの費用(コスト)が掛かりました。

しかも場所が限られています。

そこで、彫刻のような立体感を壁にほどこしたい!

と言うときに、灰色だけで描くグリザイユというものが発展していきました。

もし彫刻でやろうと思うと、その大きさ以上の石材が必要だし、のみでちょっとずつ削るので、時間もかかります。

グリザイユなら絵具と筆だけで描くことができます。

(もちろん技量はいりますが。)

それなら彫刻よりもグリザイユの方がコストパフォーマンスが高いですもんね。

グリザイユが実際に施された例として、1304年ごろジョットと言う画家が壁の一部にグリザイユで描きました。

彼の描いたグリザイユ作品は彫刻が本当にされたかと間違えるくらいよくできていますね。

しかも、枠を描いているから、実物はもっと飛び出ているように見えるでしょうね。

また、この時代ではホワイトの絵具(シルバーホワイト・チタニウムホワイト・ジンクホワイトなど)が存在していなかったので、

「ハイライトを付けよう!」とか、

「混色して色をにぶく優しくしよう!」とか

「ここに立体感を付けよう!」ということはできなかったんですね。

そこで、そもそも下地を白くして影の部分を少しずつ暗くしていく方法がとられてきました。

この時使用されていたのは、「白亜地」と呼ばれるものでした。

この白亜地については「グリザイユの描き方」でちょこっと紹介します。

絵画の下絵としての発達

ヤン・ファン・エイク作『聖バルバラ』1427年

上の画像はヤン・ファン・エイク作『聖バルバラ』です。

この作品のように絵画の下絵としての利用もされています。

もともと、油彩絵具(油絵具)は今のように固くねられたチューブ状のものではなくとろとした色水のようなものでした。

なので、現在みたいに強い被覆力(ひふくりょく:下を覆い隠すことのできる力)を持っていない透明なものばかりでした。

また一色一色手で練られていたので、時間も手間かかり、大量生産ができませんでした。

しかも現代と比べて色がほとんどなく、カラフルな油彩絵具もとても貴重なものでした。

昔の油彩絵具は

  • トロトロな色水みたいな形状をしていて半透明なフィルムみたいなもの
  • 手で練られていたので時間も手間もかかり、大量生産ができない
  • 色も少なく、あったとしてもカラフルな油彩絵具は貴重

だったんですね。

そんな貴重でカラフルな油彩絵具を節約するためにも、

最初からグリザイユで立体感を作ってから、

フィルムを重ねるように色をのせる方法が採用されたわけです。

単色画の登場

ピーテル・ブリューゲル作『キリストと姦通の女』(1565年)

また、ピーテル・ブリューゲルの『キリストと姦通の女』(1565年)では、壁などにグリザイユを描くのではなく、

「単色画」(たんしょくが)と言うパネル(木の板)に描かれた絵画作品として描かれています。

このことから、グリザイユが新たに絵画のジャンルとして確立したことが分かります。

グリザイユ画法で描かれた絵画作品については別記事で詳しく解説しています。

17世紀以降はどんどんと衰退していきます。

20世紀の巨匠がグリザイユを使用した

引用元:西洋絵画美術館

単色画と言うジャンルは衰退していきましたが、20世紀にはいるとグリザイユを利用した傑作が誕生します。

パブロ・ピカソの『ゲルニカ』が実はグリザイユになります。

あの作品はグリザイユの歴史の中である単色画から着想を得た作品です。

都市「ゲルニカ」へのナチスドイツの空爆後の街を描いたこの作品は、

まるで忘れてはいけない過去をモノクロ写真でとったような感じがします。

現在の日本での役割

現在の日本でのグリザイユの役割は、単純に立体感を付けるための下絵としての役割が多いです。

グリザイユで描かれた立体感の上にとろとろとした色水のような半透明な油彩絵具をグレーズすることで描かれます。

このように描くことによって、モチーフの固有色(もともと持っているモチーフの色)にとらわれず立体感だけに集中することができます。

私もよくグリザイユで下絵を描きますが、すごく描きやすいですね。

グリザイユでリアルな花(バラ)の描き方・工程

では、油絵でグリザイユのリアルな花(バラ)の描き方を紹介したいと思います。

これは、私が実際に描いている作品の工程をみながらグリザイユがどう進むのかを紹介します。

グリザイユ画法で描く絵は大まかに

  • 下絵を描く
  • グリザイユで立体感を描く
  • 半透明の色を重ねる
  • 細部を描く

と何層も重ね、それぞれの段階を乾燥させて次の段階へ行って

完成する絵なので油彩で描くと時間がかかりやすいです。

その代わりじっくりとモチーフを観察することができるので、

周りの人に「うまいね!」「リアルだね!」と言われるような作品が描きやすくなります。

乾燥時間を短くする裏技として「グリザイユの歴史」で紹介した「白亜地」という下地を利用します。

白亜地って何?

白亜地(はくあじ)とは、白い石灰岩であるチョーク(日本では白亜)を砕いて白い粉末にしたものを

膠(にかわ)という接着剤と混ぜた塗料を塗ったキャンバスやパネルのことです。

この白亜地は吸収性が高いので、上に乗せた油彩絵具の余分な油をスポンジみたいにどんどん吸収してくれます。

なので、油彩絵具に含まれる油が最適化されて、乾燥時間が早くなります。

私もこの白亜地を使って絵を描きますが、

油彩絵具の乾燥時間が1日くらいはやまります

(季節にもよりますが、夏場は一日で乾いたり、冬場だともう少しかかります。私の経験上になりますのであしからず。)

ではグリザイユで油絵を描いていきましょう。

第1層目:有色下地(インプリマトゥーラ)を施す

有色下地(インプリマトゥーラ)を塗ります。

私の場合、白亜地を使用しているので、有色下地(インプリマトゥーラ)を一度かけてから第二層目のグリザイユで立体感を描いています。

これを行うことで白亜地の油絵具の吸収性を抑えることができます。

また、画面全体の色合いを調整したりできます。

今回は、グリザイユなので、グレー~黒の有色下地(インプリマトゥーラ)を施しました。

インプリマトゥーラの意味や、他の色については、下の記事で紹介しています。

第2層目:下絵を転写する。

今回はバラを描いていきたいと思います。

写真やデッサンなどをカーボン紙や念紙などでキャンバスやパネルに転写します。

今回は、白のカーボン紙(念紙)で下絵を転写しました。

第3層目:グリザイユで立体感を描く

有色下地(インプリマトゥーラ)もかけ、下絵を転写し終わりましたので、

いよいよグリザイユで立体感を描いていきます。

個人的に使用する油彩絵具は

黒色の油彩絵具として、アイボリーブラック(PBk9)を使用しています。

白色の油彩絵具はシルバーホワイト(PW1)チタニウムホワイト(PW6)を同じ量で混ぜ合わせたものを使用しています。

その白と黒の油彩絵具の比率をだんだんと変化させていきながらグレーの段階をたくさん増やしていきます。

私の場合、白と黒(少し白を加えた黒)に三段階のグレー(ダークグレー、ニュートラルグレー、ライトグレー)をあらかじめパレットで作ってからグリザイユをしていきます。

パレットはこんな感じの色が並びます。

まずホワイト、グレー、ブラックの三色でざっくりと描いていきます。

まずは光りが当たることころをホワイトで描いていって、

そしてあいだを埋めるようにグレーで描いていきます。

こうすることでだんだんとグリザイユで立体感を作り上げていくんですね。

全体に油絵具でグレーを置いたところです・

最後に、アクセントとして、黒で絵を引き締(し)めていきます。

細かいところを調整して完成です。

細かいところを調整して、グリザイユは完成しました。

完全に乾燥するまでしばらく放置します。

このグリザイユの段階でさらに細かいところもしっかり描く場合もありますが、ここでは省略させていただきます。

第4層目:半透明の色を重ねる

グリザイユの層が完全に乾燥したら、今度は半透明の色を重ねていきます。

油彩絵具(絵具)には不透明、半透明、透明などたくさんの種類がありますが、

不透明の色は、ペインティングオイルやメディウムを混ぜることで透明にすることができます。

ちょうど色水のようにするんですね。

ここらへんのさじ加減は経験や知識が必要です。

第5層目:細かいところ(細部)を描く

半透明の色が乾燥してきたら、今度は細かいところを描いていきます。

細かい傷やシミ、強調したいところや、まだ立体感が足りないところを不透明な絵具、半透明な絵具などで描いていきます。

グリザイユの立体感を崩さないように描くのがコツですね。

第6層目:調整して完成

赤の色味が少ないように感じたので、赤を濃くしました。

あとは自分が納得するまで描いていきます。

形が狂っていないか、色が派手すぎないか、全体の調和がとれているかなど、最終調整をして完成です。

まとめ

グリザイユの意味や歴史、描き方をまとめて紹介しましたがいかがでしたでしょうか。

コツさえつかめば、周りの人に「絵が上手だね!」「あなたの絵が好きだな」とほめてもらえたり

分かりやすく自分の成長が見れるのでおすすめの技法です。

なんだか、グリザイユがもっと知りたくなったという人が増えてもらえれば幸いです。

最後までご覧いただきありがとうございました。