ゴッホの『ひまわり』。【あのひとのため】に描かれた傑作を徹底解説。

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岩下幸円(イワシタコウエン)
愛知県在住の芸術家。 独学で絵を学びたい人に役に立つ情報をシェアしています。 色彩検定2級を取得。 小学校教諭一種免許を取得。 寝ている生物(特に猫)が好きです。

ファン・ゴッホと言えばひまわりが有名ですが、

どうしてこうもひまわりを描いたのでしょうか。

実はある人がきっかけで描き始めたと言われています。

今回はファン・ゴッホのひまわり全種類を紹介するだけではなく、

どうしてひまわりを描いたのか、解説していこうと思います。

この記事を読めば、ファン・ゴッホのひまわりが描かれた背景に加えて、

どうしてひまわりがなぜすごいのか。

社会背景や構図、色彩を通して様々な視点から楽しめるようになります。

それではお願いします。

彼のためだけに咲くひまわり

ゴッホのひまわりは

どうしてあんなにたくさん描かれたのでしょうか。

ゴッホがひまわり好きだから?

ひまわりの絵が売れやすいから?

ちょうどひまわりがあったから?

それもあるかもしれません。

実はファン・ゴッホのひまわりは

「ある人のため」に描かれたのです。

ここでファン・ゴッホについても

少し触れながらその理由を話しましょう。

挫折の多い人生

フィンセント・ファン・ゴッホは牧師の父のもとに生まれます。

小さいころから癇癪(かんしゃく)もちと言われており、

両親や家政婦からは扱いが難しい子どもと言われていました。

画商になるも解雇、聖職者になろうとするも受験で失敗、

伝道師になるもトラブルで資格を剥奪され、その後は放浪の旅にでます。放浪の中で彼は

「しかしまさにこの貧窮の中で、僕は力が戻ってくるのを感じ、ここから立ち直るのだ、くじけて置いていた鉛筆をとり直し、絵に戻るのだと自分に言い聞かせた。」

多くの挫折を味わったファン・ゴッホは、自分に残された道は

画家だけだと考えるようになります。

運命の出会い

1887年、ファン・ゴッホはある展覧会で

運命の彼と出会います。

彼の名はゴーギャン

ゴーギャンは展覧会で飾られていたファン・ゴッホのひまわりを見て

「俺はモネのひまわりを見たことがあるが、君のひまわりのほうが好きだな。」

とファン・ゴッホに言います。

ファン・ゴッホ、運命の瞬間です。

ファン・ゴッホとゴーギャンはこの時から交流が始まります。

かねてから画家仲間を切望していたファン・ゴッホ。

彼はアルルで画家たちが集まる場所を作って

共同生活をしたいと考えていました。

自分の絵をほめてくれたゴーギャン。

彼との共同生活を夢見始めました。

そして彼との共同生活を想像しながら、

(どうすればゴーギャンは喜んでくれるだろうか。)

(そうだ、俺のひまわりをゴーギャンはほめてくれた。

部屋いっぱいにひまわりを飾ればきっと喜んでくれるに違いない。)

ファン・ゴッホはゴーギャンを迎えるために

部屋にひまわりの絵を飾ろうと計画し、

ひまわりの絵をたくさん描きました。

(ちなみにこのアルルでの共同生活はゴーギャンには一切話をしていません。

勝手にファン・ゴッホが進めています。

ファン・ゴッホの弟テオ(画商)が諸々を手配して、

アルルでのファン・ゴッホとゴーギャンの共同生活を実現します。

テオの献身的でハートフルな物語がありますが、ここでは割愛)

つまりファン・ゴッホの『ひまわり』は

ゴーギャンのために描かれた花なのです。

ひまわりの意味

上で解説したもの以外にもひまわりが描かれた意味があります。

キリスト教とひまわり

ひまわりはキリスト教において

太陽の象徴であり、

「従順」、「忠誠心」、「信仰心」、「崇拝」、「熱愛」などの意味があります。

これはひまわりが太陽に向かって常に花を向ける性質からきています。

ファン・ゴッホは熱心なキリスト教信者であるため、

この意味を知っていて描いた可能性があります。

ファン・ゴッホのキリスト教への熱心な「信仰心」

ファン・ゴッホのゴーギャンへの「熱愛」

それらの意味も込めたかもしれません。

南フランスの象徴

ひまわりは明るい南フランスの象徴であったという意味も考えられます。

南フランスではひまわりがたくさん咲いています。

さらに言ってしまえば、

理想郷(ユートピア)の象徴という意味が考えられます。

芸術家の象徴

そして、太陽に向かってのみ伸びるひまわりは

理想だけを追い求める芸術家の象徴であるという意味もあるのかもしれませんね。

このように様々な意味を彼は見出しひまわりを描いた

と考えられます。

ファン・ゴッホのひまわり全作品一覧

ファン・ゴッホのひまわりは

有名な構図(いわゆる花瓶に入ったひまわり)の作品は全部で7作品、

それ以外(アルルの生活以前)のひまわりを含んだ作品は8作品で

合計15作品にひまわりが登場します。

(水彩、素描などを含めるとそれ以上になりますが、ここでは割愛)

まずは有名な7作品のひまわりを紹介します。

有名なファン・ゴッホのひまわり7作品

ファン・ゴッホの「ひまわり」と言えば、

花瓶に活けたひまわりの作品ですね。

これらの作品群は

1888年8月から1889年にかけて描かれています。

ちょうどアルルに滞在していた時に一気に描いたんですね。

1作品目のひまわり

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1888年8月ごろ制作。

ファン・ゴッホがアルルで

一番初めに描いたと言われている作品です。

後で紹介するひまわりの作品と比べると

違う色合いで描かれています。

ファン・ゴッホの得意技である

補色(ほしょく)が使われています。

(補色については後で説明します。)

アメリカの個人収集家が所蔵しています。

2作品目のひまわり

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1888年8月ごろ制作。

2作品目のひまわりは一作品目のひまわりとほぼ同じ3本の配置に加えて、

地面に落ちた2本のひまわり、

合計5本のひまわりが描かれています。

背景が濃い青色でひまわりの黄色を引き立たせています。

このひまわりは1920年に

日本の実業家山本顧彌太(やまもとこやた)が所蔵していましたが、

太平洋戦争末期(1945年)にアメリカ軍の空襲を受けて消失してしまいます。

現在は現存しておらず幻のひまわりとなっています。

3作品目のひまわり

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1888年8月ごろ制作。

3作品目のひまわりは前回と比べてドドンと増量。12本活けています。

この作品は

色彩、構図ともに“ファン・ゴッホのひまわり”と

言えばというイメージを確立しています。

ドイツ(ミュンヘン)にあるイノエ・ピナコテーク(美術館)が所蔵しています。

4作品目のひまわり

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1888年8月ごろ制作。

4作品目のひまわりは、

3作品目のひまわりの構図とほぼ同じです。(形が似ていますね。)

そこに3本加えて15本のひまわりが活けてあります。

この作品は3作品目のひまわりを気に入ったファン・ゴッホが、

それを元に描いたと言われています。

ロンドンにあるナショラルギャラリーが所蔵しています。

このひまわりは2022年10月15日に

環境団体ジャスト・ストップ・オイルにトマトスープを投げつける

という事件が発生しました。

(幸いにもガラスで覆われていたので、作品自体の破損はなかったらしいです。)

この事件は僕もテレビで見ましたが、ショックを受けました。

記憶している方もいるんじゃないでしょうか。

5作品目のひまわり

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1888年12月~1889年1月ごろ制作

五作品目のひまわりは

4作品目とほとんど同じ構図の作品です。

1987年3月に安田火災海上(現剤の損害保険ジャパン)が、

当時の日本円に換算すると約53億円で落札しました。

現在は東京にあるSOMPO美術館に所蔵されています。

6作品目のひまわり

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1889年1月ごろ制作。

6本目のひまわりは

精神病院に入ったファン・ゴッホがアトリエ兼住居(黄色い家)

に戻ってきた際に、

5作品目を模写したものと言われています。

現在はオランダ(アムステルダム)にあるファン・ファン・ゴッホ美術館に所蔵されています。

7作品目のひまわり

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1889年1月ごろ制作。

7作品目のひまわりは3作品目のひまわりを

ファン・ゴッホ自身が模写したと言われている作品です。

まとめ

まとめると1~3作品目のひまわりは試行錯誤しながら描いた作品群、

4作品目以降は3作品目のアレンジやそれらの模写であることが分かります。

アルル以前のファン・ゴッホのひまわり8作品一覧

アルル以前にもひまわりを(含んで)描いた作品群があります。

『バラとひまわり』

作品名バラとひまわり
作者名フィンセント・ファン・ゴッホ
制作年1886年8月~9月
サイズ50cm×61cm
製作場所パリ
所蔵マンハイム美術館

最初期に書かれたファン・ゴッホ作『バラとひまわり』はパリで描かれました。

標準的な静物画ですが、すでに筆触分割と、色彩に対してのこだわりが見え始めています。

『ひまわりのある庭』

作品名ひまわりのある庭
作者名フィンセント・ファン・ゴッホ
制作年1887年6月
サイズ42.5cm×35.5cm
製作場所パリ
所蔵ファン・ファン・ゴッホ美術館

風景画の中にひまわりがあるという構図です。

配色が明快で後のひまわり作品に通じる部分があります。

『ひまわりのあるモンマントルの小道』

ファイル:Van Gogh - Schuppen am Montmartre mit Sonnonblume.jpeg
作品名ひまわりのあるモンマルトルの小道
作者名フィンセント・ファン・ゴッホ
制作年1887年6月
サイズ32cm×41cm
製作場所パリ
所蔵サンフランシスコ美術館

ひまわりのある風景画です。筆触分割が目立ち始めて、うねるような空が特徴的です。

『ひまわりのある家』

作品名ひまわりのある家
作者名フィンセント・ファン・ゴッホ
制作年1887年夏ごろ
サイズ31.5cm×41cm
製作場所パリ
所蔵個人蔵

ひまわりのある風景画です。

どちらかというとひまわりは脇役で、家に続く道を強調している役割をしています。

家に向かってぐるぐるとうねる筆致が特徴的です。

『4本の切ったひまわり』

作品名4本の切ったひまわり
作者名フィンセント・ファン・ゴッホ
制作年1887年8-9月ごろ
サイズ60cm×100cm
製作場所パリ
所蔵クレラー・ミュラー美術館

今までのわきやくであったヒマワリが静物画として描かれ始めます。だんだんとファン・ゴッホの「ひまわり」らしくなりました。

黄色と青の配色が魅力的な作品です。

『2本の切ったひまわり』

ゴッホ《ひまわり》は実は7点もある!伝説の絵画を解説 | TRiCERA ART CLiP
作品名2本の切ったひまわり
作者名フィンセント・ファン・ゴッホ
制作年1887年8-9月
サイズ50cm×60cm
製作場所パリ
所蔵ベルン美術館

黄色と赤、緑を使った作品です。

4本のひまわりから2本に減らします。

ファン・ゴッホは生涯にかけて様々な色の組み合わせを試していたので、その中のひとつの試みを感じる作品です。

『2本の切ったひまわり』

PHOTOWALL / Two Cut Sunflowers - Vincent Van Gogh (e316933) | 輸入壁紙専門店 WALPA  – WALPA.jp
作品名2本の切ったひまわり
作者名フィンセント・ファン・ゴッホ
制作年1887年8-9月
サイズ21cm×27cm
製作場所パリ
所蔵ファン・ファン・ゴッホ美術館

オイルスケッチのようなひまわりです。

おそらく色彩を試したのではないかと考えられます。

2本の切られたひまわりの構図をそのままに描いています。

『2本の切ったひまわり』

スクリーンショット 2020-09-08 10.33.58
作品名2本の切ったひまわり
作者名フィンセント・ファン・ゴッホ
制作年1887年8-9月
サイズ43.2cm×61cm
製作場所パリ
所蔵メトロポリタン美術館

同じような構図の2本の切ったひまわりを描いています。

色彩がファン・ゴッホらしい明快な黄色と青の配色。

そして、流れるような筆致です。

この作品からファン・ゴッホの配色センスと絵の描き方が確立してきています。

以上ファン・ゴッホの描いたひまわりの作品を紹介しました。

まとめ

まとめると、ファン・ゴッホは最初期にひまわりはあくまで薔薇や風景に添えるものとして描いていました。

4本の切ったひまわりを境目にヒマワリを主題とした作品群へとなっていきます。

ファン・ゴッホのひまわりがなぜすごいのか。

ではファン・ゴッホのひまわりがどうしてすごいのか。

それを3つの視点から紹介します。

今までにない「描き方」

まずは社会的な背景からひまわりがすごい理由を解説します。

簡単に言ってしまえば

今までにない描き方であったからです。

どういう点が今までにないのか。

自分の感情を表現した

ファン・ゴッホの生きた時代は、

アカデミック美術(ざっくり言うとルールを守った絵)が主流で、

印象派が一部の人に評価されはじめていました。

ファン・ゴッホは印象派のように見える技法(筆触分割)を使います。

印象派は鮮やかな色を保つために

チューブから出したそのままの絵の具の色を

画面にペタペタと並べて描きました。

これを筆触分割(ひっしょくぶんかつ)と言います。

ファン・ゴッホも印象派と同じような

筆触分割を行いましたが、

印象派とは目的が異なります。

ファン・ゴッホの場合、

ひと筆ひと筆に自分の感情を込めるために用いたのです。

ひまわりもファン・ゴッホの喜びや希望を表現するようにうねっています。

うねるような筆致はファン・ゴッホの感情表現なのですね。

このように自分の感情を表現する

とする試みは当時革新的であり、

ひまわりが傑作である(すごい)理由のひとつです。

目的
印象派鮮やかな色を保つため
ゴッホ自分の感情を表現するため

色彩構成

ファン・ゴッホは補色(と反対色)

という色の組み合わせを積極的に用いました。

補色とは正反対の性質を持つ色の組み合わせで、

お互いの色を引き立てあう効果があります。

A traditional color star developed in 1867 by Charles Blanc. The traditional complementary colors used by 19th-century artists such as Van Gogh, Monet and Renoir are directly opposite each other.

(反対色もほとんど同じ効果があります。)

黄色と紫、赤と緑、オレンジと青などですね。

とりわけひまわりではファン・ゴッホは

青と黄色の組み合わせを使用しています。

(理由については記事の後半で紹介)

背景色が青色や水色(青に白を混ぜた者)である作品があるのは、

この補色を意識して描いたと考えられます。

当時理論として発表され始めた補色を

ファン・ゴッホは巧みに用いました。

つまり補色という理論を巧みに活用した

ファン・ゴッホの「ひまわり」はすごい作品であると言えます。

さらにもっとたくさんの配色の工夫がありますが、

マニアックな話になるので、記事の後半で解説します。

構図

ファン・ゴッホのひまわりは構図も非常に優れています。

優れている作品の条件として、

構図のバランスが良いというものがあります。

これはファン・ゴッホの「ひまわり」も、

もれなく満たしています。

構図の解説

真ん中にひまわり、つまり主題があります。

これは定番の構図で真ん中に主役(ひまわり)がると、

バランスがよく見えます。

巷でいうところの日の丸構図が使われているわけです。

また横の机と背景の境界線が

画面の5分割したところにあります。

このような構図は写真や絵画において

バランスが良いと感じる構図です。

構図法でいう五分割構図が活用されています。

鉄板のバランスのいい構図が2つ含まれているので、

ひまわりが構図的にも非常に優れているすごい作品であることが分かります。

構図についてはさらに徹底解説しますが、長くなりますので、色彩構成と共に記事の後半で解説させていただきます。

興味がありましたらご覧ください。

まとめ

ではまとめに入ります。

ファン・ゴッホの有名な「ひまわり」は全部で7作品

ひまわりが登場する作品を含めれば15作品(以上)あります。

ひまわりはファン・ゴッホのキリスト教、

ゴーギャンへの「熱愛」、「尊敬」を象徴するものに加えて、

ゴーギャンのために描かれた作品でもあります。

ファン・ゴッホのひまわりがすごい理由は

  1. 自分の感情を表現した点
  2. 色彩、特に補色を巧みに使った点
  3. 構図のバランスが良い点

の3点が挙げられます。

最後までご覧いただきありがとうございました。

この作品について解説してほしい!

この用語ってどういう意味なの?

などの要望があれば、お気軽にコメントしてくだされば幸いです。

感想も行ってくれるとブログ制作の励みになって嬉しいです。

【徹底解説】さらにファン・ゴッホ作『ひまわり』を知る。

ここからは、さらにファン・ゴッホの『ひまわり』

を知りたいあなたに徹底解説していきたいと思います。

前半では割愛した内容をここで紹介して、

ファン・ゴッホの『ひまわり』をもっと知ってください!

変更された構図

6作品目のファン・ゴッホの『ひまわり』がありますよね。

この作品は実は継ぎ足されて構図が変更されています。

引用元

画面の上部を見てみると

継ぎ足し、その上から絵の具を塗ったような跡が見られます。

X線解析でも継ぎ足したことが分かりますし、

引用元

キャンバスの裏側を見ても木材が追加されており、継ぎ足されていることが分かります。

この継ぎ足しは絵の具の成分も全く同じであることから、ファン・ゴッホ自身が

上の空白が足りないと考え、継ぎ足したことが分かります。

ひまわりの本数の理由

ファン・ゴッホは熱心なキリスト教信者であると紹介しましたが、これはひまわりの本数に強くかかわってくる部分です。

キリスト教の開祖イエス・キリストにはたくさんの信者がいました。

その中でもとりわけ信仰心があつい信者12人を12使徒(しと)と呼びました。

レオナルド・ダ・ヴィンチ作『最後の晩餐』:イエス・キリストと12使徒が描かれている

この12使徒にちなんで『ひまわり』は

12本という数になったのではないかと考えられています。

ファン・ゴッホはアルルに自分を含めて

12人の芸術家を招こうと考えたのではないかと考えることができます。

さらに15本の『ひまわり』があります。

実はこの作品はゴッホ自身「14本の花束」と言及していたのにも関わらず、

実際には15本描かれています。

単なる数え間違いなのか、

はたまた後年描きくわえられたのかわかりません。

これは12人の使徒に加えて、

ファン・ゴッホが大切な人(テオやゴーギャン、はたまた好きな人ができたか?)を加え14人

、あるいは15人だったのではないかと考えることもできます。

色彩構成の解説(マニアックな人向け)

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色彩構成の解説ではファン・ゴッホは

「ひまわり」(3枚目の作品)で補色を巧みに使ったと説明しました。

ちなみに黄色の補色は紫ですが、ファン・ゴッホは青を使います。

これはフェルメールの技法に影響を受けており、

ゴッホは黄色の補色である紫ではなく青を使用しています。

ゴッホもフェルメールもオランダ出身ですので、

先輩の巨匠フェルメールから影響を受けるのは必然です。

フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』をゴッホ自身見たのかもしれません。

ヨハネス・フェルメール作『真珠の耳飾りの少女』:ファン・ゴッホも黄と青はよく絵に使用しています。

この補色を巧みに使った上にファン・ゴッホは無自覚なのか、

ドミナントトーン配色を使ってひまわりを描いています。

【ドミナントトーン配色】
色のトーンや明るさ(明度)を合わせた配色のことです。

この配色技法を使うと全体が調和して見えるようになります。

本来なら、黄色の補色である青や紫をそのまま使ってもよかったはずです。

しかしファン・ゴッホは水色にしました。

水色にすることで色の明度(明るさ)を高くして、

調和する配色としているわけですね。

つまり、補色の組み合わせでお互いの色を引き立てながらも、

ドミナントトーン配色を加えて、

画面全体を調和させているわけですね。

さらに言ってしまえば、絵に使われている輪郭線。

これがいわゆる

アクセントカラー配色となっています。

【アクセントカラー配色】
同じような明度差の色に属性の違う色を加えることで アクセントを加える配色のことです。

この線は他の色と比べて明度が低い(黒っぽい)ですよね。

この線を用いるとアクセントカラー配色になるわけですね。

アクセントカラー配色によってぼやっとした印象を引き締めたわけです。

まとめると、

  • 補色でお互いの色を引き立てあう
  • ドミナントトーン配色で明度を合わせて調和させる
  • アクセントカラー配色で画面全体のぼやっとした印象をはっきりさせた。

という配色の3段構成になっています。

これを自覚的なのか無自覚なのかは定かではありませんが、

配色がかなりすぐれていることが分かりますね、

構図の解説(マニアックな人向け)

ファン・ゴッホの「ひまわり」は

日の丸構図と3分の一分割構図の2つが使われていると解説しました。

ここではマニアックな人向けの構図の解説として主線と支線の話をします。

主線とは作品の中で一番目立つ流れのことです。

支線とは主線を支える線です。

直交していたり、主線に沿うことで、

強すぎる主線の流れを弱くしたり、主線を強調して、

画面全体のバランスを整える役割があります。

この主線、支線の考え方はゲシュタルト心理学に基づいて美術鑑賞に応用した考え方です。他にも様々な

言葉だけ聞いてもあまりぱっとしませんので、実際のファン・ゴッホの作品を見ていきましょう。

(説明を分かりやすくするために配色の解説でも使用した3番目の「ひまわり」で解説します。)

構図の主線はこの縦のラインですね。

作品をパッと見たときに、

なんとなく縦長だなという印象が出ますよね。

このなんとなくという雰囲気を言葉にしたのが主線です。

キャンバスも縦ですので、縦の主線であることが分かります。

それに対して直交している線があります。

机と背景の境目ですね。これが支線になります。

強すぎる縦の主線の流れを

中和(または調和)させるために

横の支線を入れることでバランスのいい構図となります。

さらに、ひまわりの配置。

これもかなり秀逸です。

実はこのひまわりは主線が2つあります。

ひまわりをひとかたまりにすると、

右肩上がりの楕円の形をしています。

右肩上がりは「ポジティブ」や「明るい」のイメージがでるので、

「ひまわり」のテーマにふさわしい右肩上がりの主線をしています。

その右肩上がりの主線を支えるように、

右肩下がりの葉っぱやひまわりがあります。

そうするとバランスが良くなり、安定した画面となるわけですね。

最後に、画面の背景が縦横と細かく筆触分割されています。

こうすることで、

鑑賞者が長く画面を楽しむことができます。

(良い絵の条件として画面を長く見てもらうがあるので、

ひまわり構図のすごさがあります。)

まとめると

  1. 全体の強すぎる縦の主線に対して、横の支線を加えることで調和させる。
  2. ひまわりに右肩上がりの主線があり、それを支える支線がある。
  3. 画面全体に工夫された筆触分割があり、画面を長く鑑賞することができる。

と言えます。

後年に描かれた『ひまわり』

ゴッホが描いた『ひまわり』は後年になって他の画家たちによって絵画作品の中に取り込まれています。

イサーク・イスラエルス『ゴッホのヒマワリの前に立つ女性』1916-1918

例えば、イサーク・イスラエルス作『ゴッホのヒマワリの前に立つ女性』はゴッホの死後30年が経過した時に描かれたものです。

女性がゴッホのヒマワリを鑑賞しているワンシーンを描いています。

この作品もゴッホのひまわりの黄色に対して女性の服が青色になっており、配色に工夫がなされています。

向日葵の額縁を見ると、もともと額縁はシンプルな額であったことが分かります。

イサーク・イスラエルス《ゴッホのひまわりの前に立つ女性》1918年

これも同作家作『ゴッホのひまわりの前に立つ女性』が描かれています。

最後までご覧いただきありがとうございました。

まとめと感想

ゴッホの『ひまわり』は社会的な背景はもちろん、色彩構成や構図の構成も非常に優れた作品であることが分かりました。

また、この作品について解説してほしい!

などの要望があれば、お気軽にコメントしてくだされば幸いです。