絵に用いる天然樹脂・合成樹脂・植物性ゴムの種類

今回は自身の備忘録として絵画(油彩画や水彩、アクリルなど)に用いられる天然樹脂・合成樹脂・植物性ゴムについて記載する。

樹脂の概要

樹木の切り傷に生じる。アラビアゴムなどの植物性ゴムとは異なり、水溶性ではなく、アルコール、テレビン油(テレピン)、アセトンなどの有機溶剤に溶解する。

溶解したものは樹脂溶液として、その透明性と輝度性(輝き)を高める。

揮発成分がなくなると固まるが、その後樹脂皮膜は空気中で酸化重合し、黄変、脆くなり、徐々に非溶解性となる。

天然樹脂

琥珀(こはく)

地質時代の樹脂が地中に埋没して化石になったもの。

過去にはバルト海に漂着したものを使用していたが、18世紀以降は採掘されるようになった。

ワニス引きの筆跡が残らないので、15世紀~16世紀ルネサンス期では、レオナルド・ダ・ヴィンチ、17世紀オランダで好まれて使用された。

現在では虫入りの琥珀として宝石販売されている。

コパール(コーパル)

アフリカ西部、東部から輸入された琥珀に似ている半化石樹脂。

18世紀半ばにコパール樹脂溶液と高温の亜麻仁油によるコパールワニスが開発される。

現在では、絵画用に利点がないが、標本用、樹脂香などで販売されている。

ダマール(ダンマル、ダンマー)

スマトラ、ボルネオから輸入される現存する天然樹脂。加熱せずにテレビン油(テレピン)に溶解する簡便さがある。

ダマール樹脂溶液は白濁する傾向がある。アルコールを加えて除去をするが、さらにろ過をするなどで精製する。

19世紀以降絵画に使用される。今日でも主に油彩で使用する画家がいる。

大手メーカー「ホルベイン」でも購入が可能である。また、樹脂香としても使用される。

乳香(マスチック)

ギリシア諸島に生息している樹木からえられ、西欧をはじめ、起源前のエジプト文明でも香として使用されていたと考えられる。

絵画用ワニスや透明性、輝度性を高めるために油彩絵具やテンペラ絵具に加えられた。

その他、岩群青やレーキ顔料などの触媒にも使用された。

現在はマスチックワニスや、香料としての取り扱いがある。

サンダラック

北アフリカ産の針葉樹から得る。古代では鉛丹、中世では密陀僧、雄黄を意味した。

コロホニウムよりも耐久性があるが、マスチック、ダマール(ダンマル)よりも劣るので絵画での使用は少ない。

19世紀にはアルコールにすぐ溶解するので、早く乾く中間のワニスとしての役割があった。

コロホニウム(ロジン)

松脂の中のテレビン油(テレピン)を精製した後の残留物。

コロホニウムの塗膜は弱いため、他の樹脂や乾性油と混合して使用された。

現在ではアルコールに溶ける容易さから定着剤や蝋を用いた裏打ち用の添加剤として使用されている。

シェラック(セラック)

ラックカイガラムシの雌が分泌する動物性樹脂。

1㎝前後に膨らんだ雌虫を集めて、水に付けると赤色の染料が染み出す。残った部分を布に包み、温めて絞る。その抽出物を再度温めて固めたものがシェラックとなる。

アルコールにのみ溶解し、その皮膜は非常に硬く、耐久性があるが、ワニスとしては脆い。

金箔の地、石灰絵具が染み出さないようにするための絶縁体、素描の定着剤、インクなどに使用された。

ヴェネツィア樹脂バルサム

固型になっていない流動性のある樹脂。針葉樹の唐檜(トウヒ)から得られる。

比較的黄化せず、弾力性がある。卵テンペラにもよく加えられ、油性の媒剤にも使用される。

エレミバルサム

南アメリカ、東南アジアのカナリウム種から得られる。

修復家が裏打ちとして使用していることがある。

コパイババルサム

1600年頃ブラジルから医療品として欧州に輸出され始めた。

画面のワニス層などを柔らかくして再生させるとして、19世紀後半使用されたが、褐色化するため現在は使用されていない。

合成樹脂

合成樹脂の歴史は、19世紀中頃に始まったが、大量消費されるようになったのは1920年代中頃である。

1838年~1939にビニル樹脂の重合が知られていた。

19世紀後半にはニトロセルロースラックが1940年代までパステル・木炭のフェキサチーフ定着剤として使用された。

ビニル樹脂

1960年頃、関西の振興絵具メーカーがポリ酢酸ビニルの水性エマルジョンと顔料を練り合わせた絵具が開発された。

これは木工用ボンドとして親しまれているものとほとんど同じ成分である。

今日の絵具利用はポリ酢酸ビニルに含まれる気化性可塑剤(きかせいかそざい)が、長期の耐候性に不備が分かり、ほとんど使用はされなくなった。

一部安価なポスターカラーなどには使用されている。

再溶解にはアセトン、キシレン、塗料用シンナーなどを使用する。

アルキド樹脂

グリセリン等の多価アルコールと無水フタル酸をはじめとする多塩基酸、それに乾性油または反乾性油に含まれる脂肪酸を反応させることで合成される。

合成樹脂の部類だが、詳細に分類すれば改良型乾性油樹脂(半合成樹脂)としたほうが良いかもしれない。

今日では大豆油やヒマシ油など安価な反乾性油が使用される。

乾燥が早く、塗膜も硬いため、仕上がりが自動車塗料のような硬いものとなる。キャンバス・羊皮などの柔軟な支持体には不向きである。

私はこの樹脂を用いる場合、パネルや金属などの硬性の支持体に使用している。乾燥後、その硬質塗膜からやすり掛けが可能になり、鏡面仕上げが可能となっている。

アクリル樹脂

アクリル酸誘導体から合成される樹脂。アクリルの最大の欠点であった高価なことは1953年のアクリル合成技術によって解消された。

1958年ごろにはアメリカの画家たちが使用するようになった。

もっとも一般的な絵具として水性エマルジョン型のものであるが、一方で溶剤型エマルジョン型もある。アクリル絵具については別記事にて記載しているのでそちらを確認いただきたい。

速乾性、高い耐候性、堅牢かつ柔軟な塗膜を持つ。

植物性ゴム

植物から分泌される樹脂状のものであるが、水溶性あるいは水に膨潤する性質を持つ。炭素、水素、酸素からなる炭水化物である。

アラビアゴム

アカシア種から抽出される。似たものに桜桃から採れるサクラモモゴムがある。

マメ科アストラガルス属の茎からはトラガントが抽出される。

これら植物性ゴムによる絵具は水の蒸発によって乾燥するが、再び水を加えれば水に溶ける性質を持つ。乾性油と混ぜることで、ゴムテンペラとなる。

媒剤、接着剤として、エジプトのミイラ棺肖像画から使用される歴史ある動物性ゴムである。

中世の書物画(彩色写本)には単体あるいは乾性油や卵と混ぜ、また卵テンペラと併用して用いられる。

アラビアゴムにトラガントを添加し、透明水彩、ガッシュ(不透明水彩)絵具に用いられる。

パステルにはトラガントが使用される。